1冊に「脂肪の塊」と「テリエ館」という2つの話が収録されている。
両方とも娼婦を扱っている。 127Pの薄い本なので短時間で読めた。 まず「脂肪の塊」の感想。 途中から話の展開が見えてしまったが、全体を通して面白かった。 例えば、ある集団が一つの困難にぶつかり、 それを乗り越えるには誰か一人の犠牲を必要とする。 その場合に生贄に選ばれるのは、この物語の娼婦のような世間に対して弱みのある人なのだ。 「君さえ我慢すれば、皆が助かる」みたいな事を言われると、 正面きってそれに抵抗できなくなる。 かたくなに拒絶する事はまるで恥かしいことのように思えてしまう。 一方で、責める側はまるで「犠牲になるのは当たり前」みたいな感情を持ってしまう。 この物語では、娼婦は人格者だったために、泣く泣くみなの犠牲になる。 犠牲を強いた側は、彼女に対し散々奇麗事を言って持ち上げた挙句、 助かった後は、もはやそのことを忘れたように振る舞い、また彼女を軽蔑し始める。 物語の最後の方で、馬車の中で彼女がこらえきれずに涙を流す中、 誰も彼女に食料を分けなかった場面は悲しくなった。 しかし、それほど腹は立たなかった。 悲しい事だけど、自分も同じ場面にあったら、 やっぱり汚い人間達の側にたってしまうだろうと思ったからかもしれない。 次に「テリエ館」の感想。 神聖な宗教的儀式の最中に涙を流すほど宗教的な感銘を受けた娼婦達が、 儀式が終わった後、そんなものがなかったかのように、神聖さとはかけ離れた行動をとる。 ここを読んで、「民衆の宗教に対する信仰心なんてこんなもんだよ」と、 皮肉ってるのかなと感じた。 それ以外は特に山場があるわけではなく、 全体的に淡々としていて、読み終わった後は「普通の小説だなぁ」と感じた。 だけど解説を読むと、何気ない記述に実は深い意味があると分かり、 自分の読解力のなさが恥ずかしくなった。 やっぱり名作と呼ばれる作品は、ちゃんと理由があるものだなぁ。 読書を継続して、解説を読まなくても作品のすばらしさが分かるようになりたいもんだ。 <オススメ度>★★★★
by komuro-1979
| 2004-09-06 03:55
| フランスの小説
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