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「偶然の音楽」 ポール・オースター 新潮文庫

小説の前半は主にストーリー展開の面白さが目立つ。
妻に去られたナッシュが突如遺産相続によって多額のお金を得る。
自暴自棄になっていた彼はそのお金に頼り、仕事も家族も全て捨て、
車でアメリカ全土を無目的に回りはじめる。
お金が尽きかけたところで、ポッツイという博打師と偶然出会い、
ある金持ちをポーカーでカモにしようとタッグを組む・・・。

偶然と、登場人物の中に突如にわきあがる感情に動かされて
物語が進んでいくために先が見えず、
次に何が起こるんだろう?という期待感に突き動かされながら
次々とページを繰ってしまう。

後半はナッシュとポッツィの心理描写が面白い。
理不尽で全く無意味とも思える仕事を強制され、
そこから逃げるすべはない状態。
2人に課せられた仕事の理不尽さと過酷さと言ったらない。
そして監視する人間側の得体の知れなさがなんとも不気味だ。
物語はここで動から静へと変化する。
生活を続ける中で2人の心理はどう動いていくのか。
1人は無意味な作業の中にある種の心の安らぎを見出し、
もう1人は理不尽さ・無意味さに押しつぶされそうになる。
正反対の心理経過を辿るその様子が非常に面白かった。

そして、2人心理状態の格差が極限にまで達した時に物語はまた動き出していく。
あとは結末まで一直線。
その結末自体は情報量が少なくやや残念に感じたが、
全体を通して、いい作品を読んだという満足感があった。


<オススメ度>★★★★
by komuro-1979 | 2005-01-09 18:27 | アメリカの小説
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