職業飛行家である作者が,実際に体験した冒険を紹介し,
その中で人間の本質というものを探求した小説。 最初に惹かれるのは文章。非常に硬質であり,男臭さを漂わせながらも, 感情描写や自然描写には繊細さがあり,詩のようでもある。 不思議であるが,素晴らしい文章。読み始めてすぐに小説の世界に引き込まれた。 この小説で紹介される冒険は,例えば,「砂漠に不時着し,喉の渇きと疲労によって生命の危機に陥るも,奇跡的に助かる」など,どれも劇的で相当興味深い。 しかしこの小説の醍醐味は冒険それ自体ではなく,そういった冒険の中,作者がどんな行動をとり,どんな風に感じたかを示すことによって,人間の本質とは何かを考えさせられるところにあると思う。 大自然の中や,危機的状況の中で見られる人間の高貴さ。 そういったものを失ってしまった都市部に暮らす人々に対し,作者は警鐘を鳴らす。 小説を読み終わったとき,大げさでもなんでもなく,これまでの自分の生き方を振り返らざるを得なかった。そういった力がこの小説にはあると感じた。 手放しで絶賛できる小説。 やや哲学チックであり,苦手意識を持つ人もいるかもしれませんが, 四の五の言わず,是非読んでみてください。 超オススメです。 <オススメ度>★★★★★ #
by komuro-1979
| 2007-02-12 23:07
| フランスの小説
猟奇的な事件が起こると,ニュース上では精神鑑定という文字が躍ることが多く,
以前より,精神鑑定そのものに興味を持っていたし,精神鑑定の対象者は どんな人なのだろうという興味もあったことから,なんとなくこの本を手に取った。 気軽に手に取ったはいいが,精神鑑定の流れや病気について, 予想以上に丁寧に説明がなされており,新書ながら情報量は多い。 精神鑑定について詳しく知ることができる一方,読むのに骨が折れ, 特に第1章は,法律に興味がないと読むのは辛いかもしれないと感じた。 この本のメインは第3章。 著者は精神科医として20年以上のキャリアを持ち,精神鑑定を多数経験しているのだが, その著者が実際に行った精神鑑定が10例ほど紹介されているのだ。 対象者の精神状態や言動に対し,どんな診断が下されるか, 鑑定人として法廷に立ち,証人尋問を受けるのはどういった気持ちなのか,など, 好奇心をそそられるところがたくさんあり,読んでて素直に面白い。 筆者は,精神鑑定の重要性を説きつつも,同時にその限界を示したうえ, 今後の精神鑑定はどうあるべきか,などといったところまで踏み込んだ記述がなされており, その誠実な態度に好感を持てた。 興味がある人は是非手にとってみて下さい。 #
by komuro-1979
| 2007-02-12 22:32
| 小説以外の本
(あらすじ)
その美貌と天性の才能を駆使して,イギリスで押しも押されぬ大女優となった46歳のジュリア。外見上は,美男俳優で劇場経営者である夫マイケルと理想的な夫婦を演じていたが,彼に満足できないジュリアは,劇場の経理を担当していた23歳のトムと不倫してしまう・・・。 典型的な不倫小説のようであるが,この小説の面白いところは,不倫するのがただの奥さんではなく,大女優であるところだ。 小説はジュリアの視点で描かれる。 彼女がどういう意識で舞台にのぼっているのか,そして役を演じる際に何を考えているのか,そういう,女優というものの内面がかなり詳細に描かれている。自分の知らない世界なので,読んでて非常に興味深かった。 また,トムがくだらない男であると頭では分かっていながら,しかし感情は理性を裏切り,彼に振り回されてしまうという,恋愛の不可思議な感情の動き,そしてジュリアの仕掛ける恋愛の駆け引きなどの描写もとてもうまいと感じた あれほどトムに激しく恋をしながらも,身を滅ぼさなかったは,やはりジュリアが大女優であり,仕事に命をかけているからだろう。彼女の生活の中心はあくまで舞台であり,それが彼女の人生の一本の太い芯になっている。 従って,一見すると,トムとの恋愛が小説のメインのようでありつつも,しかし作中のなかで恋愛は彼女の仕事にかける情熱を別の角度から浮き上がらせる役割を果たすにすぎず,メインはむしろ,ジュリアの舞台にかける情熱,プロ意識のほうにあると思った。 特に小説の最後で,息子から,「あなたってものは存在しない。あなたはただあなたが演じる無数の役割の中にだけ存在するんです。いったいあなたっていう人間がいるのか,それともあなたは自分が扮する他人を容れるための器でしかないのか,と僕はよく不思議に思ったんです。」などと手厳しい言葉を言われた際の,ジュリアの独白(ネタバレになるので書きません。ぜひ読んでみてください)は大女優ならではであり,プロとはこういうものかと感心してしまった。 ・・・ 461頁と長い小説ですが,難しさは全くなく,すらすら読めます。 大女優の恋愛と人生というものを,ぜひ体感してみてください。 <オススメ度>★★★★ #
by komuro-1979
| 2007-01-14 21:31
| イギリスの小説
明けましておめでとうございます。
新年一発目として,正月の暇な時間に読んだ本のレビューを2つほど書かせて頂きました。 最近は,海外文学に限らず,日本の文学や流行の小説を段々と読むようになりました。 このブログを始めたときは,とにかく「文学」というものに対する苦手意識を解消しようとして,夢中で手当たり次第に有名な文学小説を読み漁るだけに終わり,読んだ内容を自分のなかで消化する余裕があまりなかった気がします。 しかし,そんな苦手意識がだいぶ解消し,読書熱が適度なレベルに治まった今,ようやく自分の真に読みたい本を,自分のペースで読めるようになってきた感があります。 色々な本を読んで,人間的に成長していきたいと思うので,何かオススメの本があれば,是非紹介してください。 というわけで,更新の遅い弱小ブログですが,今年もどうぞ宜しくお願いします。 #
by komuro-1979
| 2007-01-08 19:46
| 日記
(あらすじ)
主人公ゴリャートキンは小心で引っこみ思案,そして才能も家柄もない典型的小役人。自分の性格や今自分の置かれている現状に比し,出世して人生の成功者になりたいという欲望はあまりに大きく,そのギャップに苦しんで精神的に病んでしまった結果,もう一人の自分という幻覚を作り出してしまう・・・。 もう一人の自分(新ゴリャートキン)は,快活で人当たりがよく,ゴマすりもうまい。本当の自分とは正反対であり,こうありたいと常々思っている自己の姿をまさに体現している。そんな新ゴリャートキンに,役所での自分の地位を次々と奪われて嫉妬し,段々と精神的に病んでいく過程が描かれているのだが,結論的に読んでてやや退屈という印象を受けた。 ゴリャートキンが新ゴリャートキンを憎み,復讐をしてやろうと思いつつも,いざ彼を前にすると,その小心さからか怖気づき,自分が悪かったと謝ったうえで相手の機嫌までとり始める。そういったゴリャートキンの人物像や,簡単には割り切れない人間の微妙な心理,理想と現実に苦しむ様子などを,非常に上手く描いている。 しかし,ストーリーが同じパターンの繰り返し(新ゴリャートキンが旧ゴリャートキンに嫌がらせ→新ゴリャートキンが出世→嫉妬,憎しみ→出世を妨げようと働きかける→失敗→新ゴリャートキンに許しを請う)であるうえ,個々のパターンにおけるゴリャートキンの内心の葛藤の描写があまりに長く,326ページ読み終えるまでやたら長く感じる。半分ぐらいの分量にすればすっきりまとまるのに・・・と思ってしまった。 <オススメ度>★★★ #
by komuro-1979
| 2007-01-08 19:31
| ロシアの小説
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