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「ティファニーで朝食を」 カポーティ 新潮文庫

表題の小説ほか,3篇の短編小説を収録。

「ティファニーで朝食を」は,ホリーのその謎めいた生い立ちと,予測不能な行動,そして彼女に振り回される男たちの描写などを通じて,ホリーという女性の魅力が充分に表現されていた。特に,飼い猫を巡ってホリーが感傷的になるエピソードは,読んでてホロリとさせられると共に,普段は自由気ままで気の強いホリーの別の一面を見せつけられ,彼女により感情移入するきっかけとなった。
ただ,ストーリーは結局,ホリーの自由気ままな暮らしを主人公の視点から追うだけであり,これではいくらホリーが魅力的と言っても飽きてしまう。正直それほど面白い小説とは思わなかった。

この小説よりもむしろ,「ダイヤのギター」のほうが断然面白かった。
「ダイヤのギター」は,殺人罪で99年の刑を言い渡された,ある受刑者の話。
娑婆に出ることを諦め,刑務所内で平穏な暮らしをしていたところ,新しく入所してきた男が脱走を持ちかけてきたことがきっかけで,彼の心はすっかり乱れてしまう。
一度は捨てたが,なお捨てきれない「自由」というものへの憧れが,ダイヤのギターを通じて見事に表現されており,読後感は素晴らしかった。


<オススメ度>「ダイヤのギター」★★★★★ 他★★★
# by komuro-1979 | 2007-01-08 17:40 | アメリカの小説

「必笑小咄のテクニック」 米原万里 集英社新書

小咄の構造を分析し,12種類に分けた上,各構造ごとに章立てし,
それぞれの章ではその構造に沿った小咄の例を豊富に紹介しながら説明している。
また,各章の最後には練習問題がついている。

小咄がきちんとした構造を持っていることは驚きであった。
この本に書かれていることを意識しながら,小咄を作る訓練?をしていけば,
いずれは笑いのとれる小咄を自分で作ることができそうな気がしないでもない。
例として紹介されている小咄はどれも面白く,読んでいて単純に面白い。

しかし,この本には,どうしても気に入らない点がある。
それは,著者が突然,小泉元総理の靖国神社参拝やその他諸々の政治的言動を採りあげて,批判を始めることだ。それもかなり高いテンションで。一応,話の流れに沿うように,小泉元総理の発言を小咄風にして紹介するのだが,小咄としては全く面白くない。その上,著者の元総理批判は見方が偏りすぎていて稚拙であり,その点でも救いようがなく,読んでて冷めるばかりだ。

その点を除けば,良書であると思う。


<オススメ度>★★★
# by komuro-1979 | 2006-12-19 22:09 | 小説以外の本

「冷血」 カポーティ 新潮文庫

アメリカのカンザス州で起きた一家4人惨殺事件を基にしたノンフィクションノベル。

小説はまず,殺害されたクラッター一家の構成員の紹介から始まり,事件を経て,一家と付き合いのあった人たちの証言,地域の人々の不安感などを描写し,中盤に差し掛かってようやく犯人であるペリーとディックに焦点が移る。
そして彼らの事件後の行動を描写しつつ,その生い立ちなどを紹介した上で,逮捕され,裁判にかけられ,死刑が執行されるまで,彼らの言動を追い続けて小説は終わる。

序盤,クラッター一家の人たちについての描写が少ないように感じられた上,その描写も,妻が病気を持っていること以外は,絵に描いたような幸せな一家としか描かれておらず,個々の家族に対して感情移入できなかった。
そのせいで事件の衝撃と悲惨さが,自分の中で減じられてしまったような気がした。
また,上述の一家と付き合いのあった人たち証言は,クラッター一家の素晴らしさと事件に対する怒りや不安を述べるばかりで,ただただ退屈であった。

しかし,ペリーとディックに焦点が移る中盤以降,急速に小説に惹きつけられた。
この様な事件を起こす人間は,一体どんなことを考え,またどのような人生を送ってきたのだろうという興味によって, 自然とページを繰る手が早くなってしまう。
特に知りたかったのは,犯行の動機。
なぜ2人はこのような残虐な事件を起こさなければならなかったのか,その理由を探ろうと読み進めるのだが,ペリーとディックの事件についての供述をいくら読んでみても,明確な,そして納得できる答えというものは出てこない。
ただ,途中,精神科医の書いた論文が紹介されており,その中で今回の犯行の動機について,一つの答えとなりうるようなものが示されていた。もちろんこれは一つの意見にすぎず,現実は全く違う動機なのかもしれないが,もし仮に動機がこの通りであるとすると,殺人を犯す動機なんてものは,こんな不明確なもので,ちっぽけなもの(という表現は適切ではないのかもしれないが)なのかもしれないと,ある種の諦め感じつつ受け入れる自分がいる一方で,こんな理由で4人も惨殺してしまう人間の心の恐ろしさと,やるせない怒りを感じる自分もいた。

この小説は,現実に起こった事件を扱っていることから,他の普通のフィクションの小説とは,リアリティが全然違う。淡々と事件の経緯を追っていくその描写に迫力を感じた。

長い小説ではあるけど,一読の価値はあります。
ぜひ読んでみてください。


<オススメ度>★★★★
# by komuro-1979 | 2006-12-17 19:48 | アメリカの小説

「三四郎」 夏目漱石 新潮文庫 

熊本の工業学校を卒業して,東京の大学に進学した三四郎の,青春を描いた作品。

全体的に淡白で短調な印象を受けた。
三四郎の心の葛藤や美禰子への恋心などの心理描写があっさりしている感があり,読んでてつっかえることなくスラスラ読めてしまうのだが,その分,深く感情移入できなかった。

また,これは完全に好みの問題だけれど,作者の文章は一文一文が簡潔であり,あまりにすっきりとしているが,この点,長文でややくどい文章が好きな僕にとっては物足りなく感じた。

では,読んで損した気分になったかというと決してそうではない。美禰子との出会いや別れのシーンなどの印象に残るシーンや,台詞がたくさんあったからだ。特に,「その時僕が女に,あなたは画だと云うと,女が僕に,あなたは詩だと云った」という台詞は印象に残った。

結局,個々のシーンや台詞に印象に残るものがありつつも,全体としてはやや退屈であったというのが正直な感想だ。


<オススメ度>★★★
# by komuro-1979 | 2006-11-26 22:44 | 日本の小説

「彗星物語」 宮本輝 文春文庫

(あらすじ)
城田家は12人と犬一匹で暮らす大家族。そこに,ハンガリーからの留学生を受け入れたことから,ただでさえ騒動続きの城田家にさらなる騒動が巻き起こる・・・。

とても面白く,そして泣けた。

登場人物の個性が立っているのがいい。
一番好きな登場人物は,恭太のおじいちゃんである福造。
口は悪いが心優しい福造と,家族との,関西弁で繰り広げられる漫才は必見。
笑わせてもらいました。
この漫才が小説のとてもいいスパイスになっている。

家族内には次々と騒動が引き起こるが,人情味溢れる家族同士の結束によって克服してゆく。それぞれのエピソードは家族の温かみというものに満ちており,時には対立し,距離を置くこともあるが,結局はその温かみを求めて家族の下に戻っていく様子に,家族っていいなぁ・・・と,再認識してしまった。

ラストは泣けます。
久々に小説で胸が熱くなった。
是非読んでみてください。
どなたに対してもオススメできる小説です。


<オススメ度>★★★★★
# by komuro-1979 | 2006-11-20 20:59 | 日本の小説