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「真夏の死」 三島由紀夫 新潮文庫

著者が自ら選んだ短編集。11作品が収録されており、
巻末には作者自身の作品解説がある。
すべての作品をレビューするのは大変なので、
本の題名に採用された、「真夏の死」についてのみレビューします。

「真夏の死」は、伊豆今井浜で実際に起こった水死事故を下敷きに、
過酷な宿命と、それを克服したあとにやってくる虚しさの意味を作品化したもの。

ストーリーの展開として、まず冒頭に衝撃的な事件の発生を描き、
その後で、残された家族が事件と向き合い克服していく過程を描くという構成をとっている。

このような特徴的なストーリー展開について、巻末の解説によれば、
作者はいかに読者を退屈させないかという点に心を砕いたらしいことが読み取れる。
しかし、残念ながら、作者が危惧したとおり、冒頭の事件の衝撃があまり強すぎた結果、
それとの対比により、その後の経過についての描写が短調なものに感じられてしまい、
やや退屈してしまった。

また、この短編のテーマは、ある過酷な恐ろしい宿命を克服すると、虚しさを感じてしまい、
新たな(恐ろしい)宿命に飢え始めてしまう点にあったようだが、
僕はそういう人間の業みたいなものよりも、むしろ、
人がある悲劇を体験したときに、いかにそれと向き合っていくか、
時の経過が心の傷にいかなる影響を及ぼし、人はどう変わっていくのか、
そういったことのほうに目を奪われた。

結局、作者の意図したような読後感は得られなかったが、
自分なりに楽しめたと思う。

他の短編で面白いと感じたのは、
病気の進行につれて人生観や芸術観が変化していく様子が面白い「貴顕」ぐらいで、
ほかはイマイチだった。


<オススメ度>★★★
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by komuro-1979 | 2006-09-24 23:14 | 日本の小説