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「美しい星」 三島由紀夫 新潮文庫

ある日、自分が宇宙人であるという意識に突然目覚め、
人類を核による滅亡から救おうとする一家族と、
それに対抗する勢力との対立のなかで、
核の時代に生きる人々の不安と、人類の展望を描いた作品。

UFOとか宇宙人とかいう単語が出てくると、それだけで、
「小説全体が陳腐なのではないか」との先入観を持ってしまう。
実際、UFOを見たことがきっかけで、唐突に自分が宇宙人であることを直感する
登場人物たちが、なんだか非常に滑稽に感じられ、
読み始めの頃は、今後の成り行きに不安を覚えてしまった。

しかし、「登場人物が宇宙人」という設定は、後半でとても生きてくる。
この小説の大きなテーマは「人類の未来」であるが、
宇宙人であるからこそ、国や文化や人種などに囚われずに、
人類全体のことを包括的に、第三者的な目で、違和感なく語れる。
そのおかげで、小説後半部分の、宇宙人である重一郎と羽黒の間でなされた
人類についての議論は、抽象的な「人類」というものを対象としているのにとても白熱し、
読んでてぐいぐい引き込まれた。
宇宙人という設定はこの小説に不可欠だったと、ここに至ってようやく分かった。

重一郎と羽黒は、人間の未来を悲観的に見ているという点では共通しており、
重一郎は人間をその悲劇的な未来から救おうと奮闘する。
しかし、最後の最後でその任務を放棄し、
「何とかやっていくさ、人間は」と言う。
僕は彼のその方向転換に、人間というものに対する作者の考え方を理解する
鍵があるように感じた。


・・・
キワモノっぽさを醸し出しつつも、
人類について考えさせられる真面目な小説。

彼らは嘘をつきっぱなしについた。
彼らは吉凶につけて花を飾った。
彼らはよく小鳥を飼った。
彼らは約束の時間にしばしば遅れた。
そして彼らはよく笑った。

という五つで人間の生活と歴史の全てが語れるというくだりが、一番印象に残った。


<オススメ度>★★★★
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by komuro-1979 | 2006-07-23 23:15 | 日本の小説

「点と線」 松本清張 新潮文庫

(あらすじ)九州博多付近の海岸で発見された男女の死体。
刑事である主人公は、単純な心中事件として処理されることに疑問をもち、
世間を騒がしている汚職事件との関連しているのではないかと推測、
容疑者とおぼしき者のアリバイ崩しに尽力する・・・。

松本清張の小説を読むのはこれがはじめて。
著者の有名な推理小説というとこで期待を持って読んだのだけれど、
面白さが分からなかった。

その原因は、この小説が「アリバイ崩し」ばかりに重点を置きすぎており、
登場人物の描写があまりに少なすぎることにあると思った。
推理小説のファンならいざしらず、普通の読者は、
「アリバイ崩し」などのパズル的要素だけでは退屈だ。
そういう要素は、登場人物に対する感情移入があってはじめて生きるものだと思う。
僕は、主人公や容疑者をはじめとする登場人物たちの名前が、
たんなる記号のように思えてしまい、しまいには容疑者のアリバイなど
どうでもよく感じられてしまった。

あまりに味気ない、まるでパズルの問題集のような小説だと思う。


(オススメ度)★★
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by komuro-1979 | 2006-07-01 23:35 | 日本の小説