<   2006年 02月 ( 8 )   > この月の画像一覧

「ジャン・クリストフ(四)」 ロマン・ローラン 岩波文庫 

それにしても、クリストフに関った人物が
次から次へと死んでいくのはどうしたことだろう?(笑)
親しい者の死によってクリストフに試練を与えるという
ストーリー上の必要があるのかもしれないけど、
いくらなんでも、ちょっと死にすぎな気がする。

クリストフとアンナとの恋愛のシーンはすごい迫力だった。
こんな恋愛があるのだろうか?
心の表層的な部分ではなく、魂がいやおうなく相手にひきつけられ、
一度ひっついたら決して離れられないような恋愛。魂の結合。
すごいなぁ・・・。
このシーンの、情熱と理性、生と死の戦いに関する描写は
人間の本質というものを描きだしていて、ただただすばらしかった。

ただ、他のシーンでは、やや退屈する箇所が多かった。
その原因はまず、ストーリーの進展の遅さと単調さにあると思った。
もちろん、アントワネットやアンナとのエピソードをはじめ、
心を打つエピソードはたくさんあったのだけれど、全体の分量からすると少ない。
そういうエピソードよりはむしろ、比較的平坦な生活のなかでの
主人公の内心の葛藤やパリの当時の思想・文化状況に多大なページが割かれている。
深い心理描写は好きなのだけれど、ちょっとくどすぎる感じがして好きになれなかったし、
パリの思想状況等については関心がなかったので、退屈に感じられた。

ラストにかけては、改めて、クリストフという人間の強い精神力と、
人に対する(楽天的とも言える)信頼の強さに感動した。
そして、一人の人間が一生かけてできることというのは
とてもちっぽけではあるけど、それでも彼が生きた証はちゃんと
後世に残り、それは形を変えることがあっても、
人類の歴史の流れの中で脈々と受け継がれて行くという、
壮大な思想が感じられた。
死ぬことはそんなに悲観することではないのではないか、と、
読んだ後に思えてしまったぐらいだ。

全体の感想。
正直言うと、客観描写と心理描写が詳細かつ長すぎてしんどかった。
どんなにそれらが優れたものであっても、
あらゆる事柄について精密に長々と描写されると、読んでて疲れてしまう。
その結果、本来は盛り上がるシーンにさしかかっても、
疲れと飽きによって感動が減ぜられてしまった感がある。
もうちょっとメリハリをつけた描写が欲しかった気がする。

とはいえ、個々の描写が優れていることは間違いない。
いろいろ含蓄ある言葉や考え方がちりばめられていて、
読んでる途中本を閉じて有益な夢想に耽ることがたびたびあった。
読んでためになる小説であることは間違いないと思う。

オススメ度は・・・。
読むのに必要な莫大な時間と精神力に対し、
読むことによって得られたものを比較すると、
少し割りに合わない気がした。
なので、オススメ度は★3つにしておきます。


<オススメ度>★★★
[PR]
by komuro-1979 | 2006-02-27 18:07 | フランスの小説

「ジャン・クリストフ(三)」 ロマン・ローラン 岩波文庫 

金持ちの家に生まれ、天真爛漫に育ったアントアネットが、
突然の不幸によって家が没落し、両親を失い、不幸と貧困のどん底に突き落とされながらも
絶望せず、身を粉にして働き、愛する弟を助ける様子には心が打たれた。
なんて強い人だろう。そしてなんて献身的ですばらしい愛だろうか。

次に、クリストフの人生観の底にある、人間愛はすごいと思った。
世間から排斥され、様々な困難に遭い、人間の醜さを嫌というほど味わっているのに、
それでも世を嘆かず人を愛し続ける。
少し理想主義的な感じもするけど、厳しい現実の中でも
自分の価値観をずっと守り続ける姿は尊敬に値すると思う。

この巻ではクリストフの価値観・人生観を表している
次のやりとりが印象に残った。

「ほんとに世の中は悲しいものですわね!」とアルノー夫人はややあって言った。
クリストフは顔をあげた。
「いいえ、人生が悲しいのではありません。」と彼は言った。「悲しい時があるのです。」
アルノー夫人は悲痛さを押し隠して言った。
「以前は愛し合ったのに、もう愛し合わなくなる。それが何かのためになりましょうか。」
「愛し合っただけでいいんです」(476頁)
[PR]
by komuro-1979 | 2006-02-25 03:23 | フランスの小説

「ジャン・クリストフ(二)」 ロマン・ローラン 岩波文庫 

クリストフは、世間一般の人がなんとなく想像する芸術家像、
すなわち、気難しくて非社交的で感情的で、いわゆる変人っぽいという特徴を持っている。
そしてやっぱり世間に理解されない。
彼が、自分の音楽上の信念を貫くために世間と対立し、
ひたすら攻撃され、苦悶する様子は壮絶だ。
人を愛し愛されたいという心を持っているからこそ、
人から排斥される苦痛が大きいのだと言える。
ま~それにしても、世間渡りがあまりに下手すぎるなぁ・・・。

クリストフは、誰も味方のいない孤独な闘いの中、自分の信念を貫けるのか。
彼を理解し愛する人々が登場するのだろうか。
そう思いつつ読んでいたら、最後のほうでオリヴィエが登場。
彼とクリストフとの関係がこの先、気になるところだ。
[PR]
by komuro-1979 | 2006-02-22 02:47 | フランスの小説

「ジャン・クリストフ(一)」 ロマン・ローラン 岩波文庫 

(あらすじ)
音楽家の家系に生まれ、幼い頃から音楽家としての才能を開花させたクリストフ。
自分にあまりに正直で、世渡りの下手なクリストフは、世間から様々な苦難を与えられるも、
それでも人を愛し続ける。傷つきつつも戦いをやめない彼の成長の物語。全四巻。

クリストフの幼年期から順をたどって
彼の成長を追っていくストーリーと、精密詳細な心理描写は
自分好みであるが、しかし、ストーリの進み具合に対して
心理描写の量が多く、さすがに読んでて疲れてしまう。
本も厚く、一冊読むのに一苦労。
これをあと3冊か。かなり気合を入れないと・・・。

一巻では、ローザのその報われない心の悲しさが印象に残った。
善良で純粋な心を持ち、あれだけクリストフに尽くしているのに、
顔が悪くておしゃべりという理由であの扱い。
現実なんてそんなものだよなぁ~と思いつつも、ちょっと可哀想だった。
[PR]
by komuro-1979 | 2006-02-17 18:51 | フランスの小説

「燃えよ剣(下)」 司馬遼太郎 新潮文庫

最初は正直、時代遅れの考えに固執して、やたらと人を殺しまくる新撰組、
特にその性質が顕著な土方に対して、あまりいい印象を持てなかった。
でも、どんな考え方であれ、それを初志貫徹する姿は心を打つものがある。
どんな苦境に陥っても、自分の生き様を変えず、己の剣で自分を表現する
土方の男らしさに、自然と惹き込まれいった。

今まで新撰組について興味がなく、その歴史について
ほとんど知らなかったが、これを機に色々調べてみたいと思った。
小説の中の隊士たちと、史実での彼らとの違いなどを調べてみると、
面白いかもしれない。
また、予備知識がなかったせいで、当時の時代背景についての小説中の説明、
例えば佐幕派とか尊皇攘夷派などの理解や、どの組織がどういう思想を
持っているのかなどがあまりよく理解できず、途中でこんがらがってしまった。
そこらへんをよく調べて、いずれまた読み返してみたい。


<オススメ度>★★★★
[PR]
by komuro-1979 | 2006-02-14 13:09 | 日本の小説

「燃えよ剣(上)」 司馬遼太郎 新潮文庫

簡潔で無駄をそぎ落とした文章のおかげで、
非常にテンポよく話が進んでいくのだが、
しかし、その簡潔すぎる文章が、自分にはあまり合わなかった。
もっと土方の内面に突っ込んだ心理描写が欲しかったし、
自然描写も、もうちょっと詳しく書けば雰囲気が盛り上がったのに、と思う。

また、隊士がその後どうなったとか、
藩と藩との関係を現代の○○に例えたりするなど、
ストーリーの展開と離れて現代の視点から説明する箇所が多いが、
物語の世界から現代に一気に引き戻される感じがして嫌だった。
歴史教科書的な役割を期待してこの小説を読んでいるわけじゃないので、
そういう説明的な文は要らなかったように感じた。

そして、次から次へと事件(殺し合い)が勃発するため、
そのせいで個々の事件の重みをだんだんと感じなくなり、
生死のやり取りの緊迫感を感じなくなってきてしまった。
もっともこれは史実がそうなのだから、しょうがないのかもしれないが・・・。
[PR]
by komuro-1979 | 2006-02-11 14:13 | 日本の小説

「ボヴァリー夫人」 フローベール 新潮文庫

(あらすじ)
田舎の医者であるボヴァリーの妻エマは、夫の凡庸さに飽きてしまったために、
情熱的な恋愛を空想しては不倫と借金を重ね、不幸になるという話。

作者の自然描写(客観描写)の鋭さは驚異的だと思う。
情感溢れたやわらかな描写ではなく、機械的正確さをもった描写。
文を読み、目を閉じると、その情景がありありと浮かんでくるようだ。

この描写技術には感心したのだけれど、ストーリーのほうはたいして面白くない。
当時のフランスでは、この小説が風俗を乱すとして問題になったらしいけど、
今の現代社会では、きわどい描写もなにもない単なる不倫小説だ。
先の展開が読めてしまう上に、不倫以外にたいした事件が起こらない。
そのわりには話が長すぎるので、読んでてだれてしまった。

客観的には人並み以上の幸せを手に入れているのに、
もっと自分は幸せになれると誤信し、夢ばかりを追いかけるエマ。
このような女性はどこにでもいるだろうし、
自分の中に、エマのような考え方がないとは言えない。
だからこそ、エマを単純に愚か者だと言って笑えなかった。

エマはどうすれば幸せになれたのだろうか?
どんな人と結婚しても、彼女の根本の考え方を変えない限り、
必ず相手に飽きて、不幸に陥る気がする。
今自分の置かれている、自力では変えられない現状に適応するようにし、
そんな生活から幸せを見つける努力をしていくことぐらいしかないのだろうか。


<オススメ度>★★★
[PR]
by komuro-1979 | 2006-02-07 03:10 | フランスの小説

「中平卓馬の写真論」 中平卓馬 リキエスタの会

この本は某書籍通販サイトで、なんとなく注文してみたのだけれど、
予想外の大当たりだった。
著者の感性の鋭さ、優れた分析力に圧倒されまくり。
写真論とあるが、芸術論、メディア論としても読める。
やや難しめの歯ごたえのある文章が並んでいるけど、
その内容の面白さと、わずか84Pという薄さとが相まって、あっという間に読み終わった。
著者のことは全く知らなかったが、
すごい有名な写真家らしいことを後で(ネットで調べて)知った。

全般的にとても面白かったのだが、ひとつだけよく分からなかった点がある。
著者は、主観を世界に投影すること、つまり、
自分の「世界はこうあるべき」というイメージから出発して世界を認識し、
その認識を作品に反映させるという今までの手法を止めて、
自分の主観から離れ、世界そのものの(客観的な)姿をとらえて、それを作品にすべきという。
しかし、作品を作る際に、自分の主観から離れるなんてことは、本当に可能なのだろうか?

また、そもそも、自分の主観から出発して世界を捉えて作品化することが、
なぜいけないのか。
著者は、それは人間の思い上がりだというが、それだけでは説明が足りないように感じた。


<オススメ度>★★★★★
[PR]
by komuro-1979 | 2006-02-02 03:41 | 小説以外の本