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「大いなる遺産(上)」 ディケンズ 新潮文庫

(あらすじ)
幼い頃両親を亡くし、歳の離れた姉と、その夫である鍛冶屋のジョーに育てられた
主人公ピップ。
田舎で貧しい暮らしを送る中、ある日ピップは匿名の人物から
莫大な財産を相続する事に決まる。
その人物の指示のもと、ピップはロンドンに出て優雅な暮らしを始めるが・・・。

ストーリーが非常に分かりやすい。
そのせいで先の展開がある程度読めてしまう部分がある(笑)
小難しいことは一切なく、ただただ読者を他のしませるために書かれた小説という
感じがした。

主人公をはじめ、登場人物たちの人物描写がしっかりしているのがいい。
ジョーのように、「無口で学はないけど、常識をもっていて、心が温かく、
自分の仕事に誇りをもっている職人」という人物設定は、
他の小説でもよく見られる定番的なものだ。
普通なら定番過ぎて面白みがないのだけれど、
そこはきちっと魅力的に描かれている。
ジョーの他にもたくさん定番的なキャラが出てくけど、
みんなそれぞれ魅力的に感じた。

主人公はこの先どうするんだろう?わくわくする。
個人的には、金に踊らされて大事なものを見失った自分を反省し、
ジョーとの暮らしを取り戻すという展開になって欲しいけど・・・(笑)

オススメ度や全体の感想は、下巻を読んでからにします。
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by komuro-1979 | 2005-08-29 00:15 | イギリスの小説

「壁」 安部公房 新潮文庫

う~む・・・。

これは。

わからん・・・。

さっぱりわからんぞ・・・。

恥を承知で言うけど、全く理解できなかった。
この本は3部構成(それぞれの話につながりなし)であるところ、
2部の後半まで読み進めたところで挫折。
このブログで挫折の報告をしたのは初めてだ。

文章は非常に読みやすいのだけど、
登場人物の会話もストーリーも、あまりに寓意的でわけがわからん。
それでも読んでいればいずれ分かってくるのかと思い、
頭の中に?マークをたくさん浮かべながらも、我慢して読み進めていったのだが、
1部は結局、最後まで読んでもさっぱり意味が分からなかった。
2部はなんとか理解のとっかかりがつかめそうな予感があったのだが、
バベルの塔が出てきたあたりであえなく撃沈。

裏表紙の紹介文によれば、
「独特の寓意とユーモアで、孤独な人間の実存的体験を描き、
その底に価値逆転の方向を探った」作品なのだそうだが・・・。

この小説を読んで、面白さが分かったという人に
解説してもらいたい気分・・・。


挫折したのでオススメ度は星1つということで・・・。


<オススメ度>★
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by komuro-1979 | 2005-08-24 03:38 | 日本の小説

「砂の女」 安部公房 新潮文庫

(あらすじ)
砂丘へ昆虫採集に出かけた男が、
砂の底に埋もれ行く一軒家(蟻地獄の底に建っている家のようなイメージ)に
閉じ込められる話。

砂をかき出すだけで終わる一軒家での暮らしは、
あまりに短調で退屈で奴隷的で、およそ人間らしくない生活だ。
最初、男はあまりの理不尽さと苦痛から、
ここから脱出して元の生活を取り戻すことばかりを考える。
脱出後の生活を夢想し、それを精神的な糧にして、今の辛い生活を耐えるようとするのだ。

しかし、一軒家での生活を送る中、よくよく考えてみると、
今までの生活は果たしてそれほど魅力的で価値のあるものだったのか
疑念を抱くようになっていく。
そしてある装置の発明がきっかけで今までの価値観が一変し、
一軒家での生活に楽しみを見出すようになる。
こういった男の心境の変化の過程がとても面白かった。

少し乱暴な考え方ではあるけど、
この現代社会の生活と砂の底の一軒家の生活の本質は、
それほど違わないのかもしれないと思った。

現代社会の生活は、砂の底の一軒家での生活とは違って、
情報に溢れ、娯楽の手段も無数にあり、より豊かで充実した生活のように思える。
でもそれらは実は生活の重要な要素ではなく、
あってもなくても生きていくうえでは困らない。
生きていくうえで必要なのは、例えば仕事をしてお金を稼ぐことであり、
多くの人は仕事をし、仕事上の義務に追われ、
その義務をこなすだけの短調で退屈な生活に陥っているような気がするのだ。
仕事してクタクタに疲れて帰ってきて、ビールを飲んで寝るだけの生活と、
砂をかき出してクタクタに疲れて焼酎を飲んで寝るだけの生活とで、
どれほど違いがあるのだろうか・・・?

男は物事の考え方の枠組みを変え、
一軒家での生活の不満な点のみを見ることから自由になる事で、
はじめて生活を楽しめるようになる。
結局、どんな生活環境にあろうと、満足のいく生活を送れるかどうかは
その人の考え方やものの見方次第ということなのだろう。

・・・
やや比喩が難しく感じたところがあったけど、
全般的には読みやすく、内容も深くて、非常に面白い小説でした。
オススメです。

<オススメ度>★★★★★
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by komuro-1979 | 2005-08-22 02:30 | 日本の小説

「人間失格」 太宰治 新潮文庫

(あらすじ)
世間というものを恐れて自分を偽り、人を欺き、過ちを犯して、
人間失格の判定を自らに下した男の話。

人が社会生活を円滑に送るためには、
それぞれのコミュニティに適合するように
本当の自分の性格を隠したり、欲求を押さえつけるなどして、
ある程度偽りの自分というものを演じなければならないと思う。
そこにはやっぱり無理しているところがあって、
ほんとの自分とのギャップに悩んでしまう事が僕にもある。
その点で主人公には共感できる部分があった。

ただ、さすがにこの主人公は弱すぎると感じた。
世間と本当の自分との調和点を見つけることから
あまりに安易に逃げ続けている。
読んでいてそこに少し苛立ちを感じ、小説序盤はあまり楽しめなかった。

しかし、小説の中盤以降は物語の中にぐいぐい引き込まれた。
特にアパートの屋上での主人公と堀木との会話から
ヨシ子の身に起こった事件のあたりを読んだ時は、
物語の構成力と心理分析・描写の上手さに衝撃を受けた。
事件の描写の仕方一つで、読み手にこうも凄惨な事件であるという
印象を与えるものなのかと素直に感心した。

結局、他人より心が弱くて傷つきやすく、
世間と上手く関われない人間は、
主人公のような結末を迎えるしかないのだろうか?
結末の救いの無さに、読了後に気分が暗くなった。

主人公に共感できるかどうかはともかく、
読み手の心に強く訴えかける力をもつ
すごいエネルギーをもった小説だと感じた。
まだ読んだ事の無い人がいらっしゃったら
ぜひ読んでみてください。

・・・蛇足になるけど、
小説のあとがきにあるように、
ドストエフスキーの「地下室の手記」が似たようなテーマを扱っている。
僕はそちらの主人公のほうが自分に近い・・・というより自分そのもののように感じた。
あの小説を読んでいたときは、主人公と自分の姿とが重なってしまい、
自分の欠点や情けない部分、恥かしい過去の出来事などが自然と頭に浮かんできて、
羞恥心のあまり思わず本を閉じてしまったほどだったが、
「人間失格」ではそのような事は無かった。
「人間失格」が好きな人はぜひ「地下室の手記」も読んでみてください。


<オススメ度>★★★★★
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by komuro-1979 | 2005-08-18 02:40 | 日本の小説

「死の家の記録」 ドストエフスキー 新潮文庫

(あらすじ)
思想犯として逮捕され、シベリア流刑に処せられた作者が
4年間の獄中生活で体験した出来事と見聞の記録。

物語に起伏がなく、途中でややダレてしまった。
監獄内の規則や労働内容の描写はそれ自体としては退屈であるし、
また、囚人達が監獄に入れられた経緯について様々なケースが描かれているのだが、
残念ながらその中で興味を引くものは少なかった。

そんな中、印象に残ったのは、風呂場のシーン。
細かいところまで正確に描写しているために、
読んでて思わず、むさくるしい男達が狭い浴室にぎゅうぎゅう詰めになって
垢まみれの体を洗い流している様子を想像してしまい、
そのおぞましさに寒気がした。

あと、クリスマス。
囚人達は、普段はお互い罵り合い、いざこざが絶えないのに、
クリスマスだけは全員一致で厳粛な気持ちになって心穏やかに祝う様子は、
どこか不思議で面白く思った。

作者はこのような監獄内での出来事を通じて、囚人達の心理を細かく分析している。
彼らの心理は、一般人の感覚からすれば矛盾しているように思えたり、
不思議で理解しにくいものばかりであって、読んでてとても新鮮で興味深かった。
これらの心理描写は、作者が実際に監獄に入って囚人達と生活を共にしたことから
説得力があり、緻密だ。その点で読む価値は高いと思う。
ただ、小説全体としてはそういう心理分析よりも、
出来事などの客観的描写にやや余計に力点が置かれており、
そこが僕にとって読んでてダレる原因になってしまったのが残念に思った。


<オススメ度>★★★
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by komuro-1979 | 2005-08-07 18:30 | ロシアの小説

「審判」 カフカ 岩波文庫

(あらすじ)
ごく平凡なサラリーマンであるKがある日突然逮捕されるが、
しかし身柄拘束はされず、日常生活をそのまま送ってよいという。
逮捕については、逮捕状がなく、罪名がわからない。
K自身、何の罪で逮捕されたのか全く思い当たらないし、
逮捕者に聞いてもはっきりしないばかりか、裁判所に出頭してさえはっきりしない。
とりあえずその後の訴訟活動を弁護士に任せるが、
弁護活動が上手くいっているのかどうか、そもそも裁判が進んでいるのかさえ分からない。
なにもかもがわからないのだ。
Kは裁判の不可解さ・理不尽さから、だんだんと心理的に追い詰められていく・・・。

文章は読みやすいのだが、
解釈が非常に難しい小説だ・・・。

作者は、刑事司法システムというものの不条理さと、
官僚システムの無責任さがいいたかったのだろうか?
確かに、法律を知らない一般人にとって、
裁判制度というものは未知で恐ろしいものだと思う。
法律用語は難解だし、裁判がどんな法則で動いているのかも分からない。
もし国家権力が一般人の法的無知を盾にとって、突然いわれのない罪で個人を逮捕し、
理由の開示を求めるその者を、難解な言葉と、官僚システム独特の責任回避術によって
煙に巻き、知らず知らずのうちに裁判を進めて、有罪を認定し、刑を執行する。
それはとても恐ろしいことだ。

小説でのKも、役人の誰に聞いても自分は下っ端というばかりで、
自己の裁判の最終的な決定権を握っているのが誰かなのかが全く分からない。
そして裁判の知識のないKは、裁判の状況がどうなっているのか、
弁護士の訴訟活動が進んでいるのか、それも全く分からない。
何もかも分からないまま結局刑が執行されてしまう。
その過程はとても恐ろしく、不可解で、不条理だった。

でも、それだと表面的な解釈のような気もする。
作者は個人の内面的な不安や弱さというものを、
法と個人との関係になぞらえているようにも思える。
最初、第九章の「掟の門」のたとえ話を読んだ時、
法と個人との関係をなぞらえたものというよりも、
人がある目的に向かって進もうとするときに起こる心理的障害(不安や葛藤など)を
表している、つまり、門の中が目的地で、門番が心理的障害のような気がしたのだ。
そう第九章を解釈すると、Kの物語に別の意味をもたせることができる気がする。

う~ん・・・。
この小説を読んだ人の読書感想を読んでも、
みなそれぞれ独自の解釈をしている。
多様な解釈を許すそのあいまいさが、この小説の魅力なのかもしれない。


<オススメ度>★★★★
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by komuro-1979 | 2005-08-02 20:05 | ドイツの小説

「郷愁」 ヘッセ 新潮文庫

(あらすじ)
自然に満ち溢れた山間の村を出て、都会暮らしをはじめた主人公ペーター。
長い都会暮らしのなかで、
文明生活に馴染まない自分の詩人としての本性を再確認することになり、
結局彼は故郷に安住の地を求める・・・。

自然風景の描写はとても素晴らしいと思った。
うまく言えないのだが、まるで木や山が生きていて、意志をもっているかのように、
生き生きと動的に描かれていた。
作者の自然に対する深い理解と愛情がひしひしと伝わってくる。

ストーリは、ペーターの過去を少年時代から現在まで順を追っているのだが、
各時代に割かれた記述が少なく感じられた。
その結果、その時その時に起こった色々な出来事に対する掘り下げが足りず、
少し消化不良に感じたのが残念だった。
とはいえ、ペーターが自分の本性を再確認していく過程は十分に面白かった。

それにしても、心に悩みを持つやや暗い少年が
自己にない性質を持った明るくて朗らかな友人と出会い、
一方で、美しくて完璧ともいえる女性に恋をするという展開は、
ヘッセの他の小説でも見た気がするが、
これはヘッセの一つの典型的なパターンなのだろうか・・・?


<オススメ度>★★★★
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by komuro-1979 | 2005-08-01 15:32 | ドイツの小説