<   2005年 02月 ( 5 )   > この月の画像一覧

「蝿の王」 ウィリアム・ゴールディング 新潮文庫

(あらすじ)
戦争のさなか、イギリスから疎開する少年たちの乗っていた飛行機が攻撃を受けて、
南太平洋の孤島に不時着した。
生き残ったのは6歳から12歳ぐらいの少年たちだけ。
最初、彼らは秩序だった生活を維持し、南国リゾート気分を満喫するが、
長引く孤島での生活は次第に少年たちの健全な心を蝕み、
目に見えぬ「獣」に怯えるようになる・・・。


小説の最初は、島での生活を楽しむ少年たちの様子が続き、
ストーリーに起伏が無いためにやや退屈だった。
しかし少年たちの結束に亀裂が入り始め、
ラーフとジャックの対立が決定的になるあたりから、一気に物語に引き込まれた。

最初はみんな秩序を守って仲良く楽しく過ごしていた。
しかし孤島での生活という異常な状況が長引くにつれて、
ラーフやピギーたちのような常識と秩序を重んじる者たちはやがて少数派となり、
ジャックのような破壊と欲望を重んじる者たちが多数派となる。
後者に属する子供達には理屈は全く通じない。
救助されるための方策すら尽くそうとせず、本能のままに生きようとする。
ラーフやピギーがなんとか秩序を取り戻そうと試みるが失敗し、
かえって火に油を注いでひどい目にあわされる様子には、
気分が重くなった。

小説のなかで一番印象に残ったのは、サイモンが蝿の王と対面するシーン。
蝿の王の語った言葉や姿形を含めたいろんな意味でのおぞましさは、
すごくインパクトがある。
そしてこのあたりから物語は寓意小説っぽくなっていく。
読んでいて僕は、この島は全世界の縮図だと思った。
ラーフやピギーやジャックのような人間と、
彼らの起こした事件は、現実世界でいくらでも似たような例がいくらでもあると思ったのだ。
誰の心にも存在する「獣」。
サイモン以外の子供たちはそれと向き合うことができなかったがゆえに
悲劇的な結末へと向かっていった。
では、今の世の中の大人たちはどうだろう?
「獣」とちゃんと向き合っているのだろうか?
読み終わった後、色んなことを考えてしまった。


<オススメ度>★★★★
[PR]
by komuro-1979 | 2005-02-25 03:02 | イギリスの小説

「幸福論」 ラッセル 岩波文庫

こういう自己啓発系の本は、
どこの本屋に行ってもたくさん置いてある。
そのなかでこの本を読んでみようと思ったのは、
ラッセルのような世界的に有名な思想家の書く幸福論に興味があったから。

読んでてまず思ったのは、
文と文、段落と段落とのつながりが分かりにくいところが多々あること。
その結果として、各章のなかで著者の言いたいことが十分につかめないことがあった。

そして肝心の内容はというと、
納得できる部分と納得できない部分との半々ぐらい。
著者のいうことはどれも当たり前のことであり、
特に目から鱗が落ちたと感じるような記述はなかった。

そんな中、これはどうかと思ったのは、
「宇宙の広大さに比べれば人間の悩みなんてちっぽけだ」みたいな
宇宙を引き合いにだす記述。全体を通じて何度か出てくる。
確かにその通りで反論の余地はないんだけど、
そんなこと言われてもなぁ・・・。
そういう風に割り切れないから悩むわけで・・・。
なんか誤魔化されているような感じがしてイヤだった。

結論としては、
上に述べた点を除けば全体的にいい本だと思ったけど、
巷に溢れている類書と比べて格段にすぐれているという気はしなかった。
よって、オススメ度は星3つ。
下に目次を挙げておくので、気になるテーマがあれば
読んでみるのもいいかもしれません。

・・・ところで、
こういう自己啓発系の本って、読んだ直後は「なるほど!その通りだ!!」と思い、
「本に書いてあることを実践して、よりよい生活を送ろう」と、いつも心に誓う。
でも、いざ実践しようとすると、
本に挙げられた具体例と現実のズレという壁に必ずぶつかる。
現実は本に書かれている例のように単純ではなく、
実践には思いのほか根気が要ることに気づくのだ。
そして結局、自分の意思が弱いせいもあって、
1週間もしないうちに挫折し、1ヵ月後には本の内容も誓った事も忘れ、
しまいにはそういう本を読んだ事すら思い出せなくなる。
これは僕だけなのだろうか?
この本もそうなりそうな予感がする・・・。


<オススメ度>★★★



・・・以下、本の目次

第1部 不幸の原因

何が人びとを不幸にするのか
バイロン風の不幸
競争
退屈と興奮
疲れ
ねたみ
罪の意識
被害妄想
世評に対するおびえ

第2部 幸福をもたらすもの

幸福はそれでも可能か
熱意
愛情
家族
仕事
私心のない興味
努力とあきらめ
幸福な人
[PR]
by komuro-1979 | 2005-02-17 20:01 | 小説以外の本

「知と愛」 ヘッセ 新潮文庫

(あらすじ)
修道院に入り、精神の人になろうとしたゴルトムントは
そこで出会った師であり友でもあるナルチスによって、
自分は精神に仕える人間ではなく、芸術に仕える人間であることを気づかされる。
そしてゴルトムントは修道院を出て各地を放浪し、
行く先々での様々な出来事を通じて自己を確立していく・・・。


マイッタ。これは面白すぎる。
時間を忘れ、夢中で読んでしまった。
久しぶりに心の奥底を揺り動される本を読んだ気がする。

まず、ナルチスとゴルトムントの友人関係に感動した。
お互い全く正反対の性質を持ちながらも、
魂のレベルで理解し合い、尊敬し合い、高め合う関係。
そして何年離れていても決して変わらない友情。
そこに「友人」というものの理想形を見た気がした。
こんな友人が身近にいたら、自分の人生はきっと大きく変わるに違いない。
非常に羨ましく感じた。

ゴルトムントは旅先で様々な人や事件にあう。
どのエピソードも非常にスリルがあって
その展開を追うだけでも十分に楽しい。
でもやっぱり、この小説をここまで面白いと感じさせるのは、
それらの経験を通じて語られる「哲学」の部分だと思う。
ゴルトムントは放浪生活を通じて
孤独や死、芸術や愛などのテーマをについて深く考える。
その思考過程はとても含蓄に富んでいて味わいが深い。
読みすすめていくうちに、いつしか思考の世界に没入し、
これらのテーマについて自問自答している自分に気づいてしまう。
自分の生き方や価値観を再考するとてもいい機会になった。


・・・と、いうわけで、
オススメ度は当然、星5つです。
哲学的な小説ですが、決して難しいわけではありません。
哲学を全面に出しすぎた小説だと疲れてしまいますが、
この小説は物語性が高く、哲学と物語性とのバランスが絶妙だと思いました。
超オススメの小説です。


<オススメ度>★★★★★
[PR]
by komuro-1979 | 2005-02-10 18:43 | ドイツの小説

「雪国」 川端康成 新潮文庫

こういう超有名な日本の近代文学を読むのは、
高校生の時の読書感想文以来だ。
あの時は太宰治の「斜陽」を読んだけど、その面白さがさっぱり分からず、
文学というものに対して強烈な苦手意識をもってしまった。
そのせいで最近まで文学作品に手を出そうと思いすらしなかった。

そして今、少しずつではあるけど海外文学を読むようになり、
文学そのものに対する苦手意識がだいぶ払拭されたところで、
いざ日本の近代文学へ再挑戦。
「雪国」を手にとってみる。

しかし・・・。

正直面白いとは思わなかった・・・。

風景描写はすばらしいと思う。
日本語でこんなに上手に「美しさ」というものを表現できるのかと感心した。
文を読むごとに頭の中でその風景を想像し、
その情感豊かな表現をじっくり味わいながら時間をかけて読んだ。

しかし、ストーリーはほとんど印象に残らず、退屈とさえ感じた。
島村と駒子との恋愛はなんかあっさりしすぎていて、読んでいて感情移入できず、
良く理解できないまま終み終えてしまったというのが正直な感想だ。
普段、僕は小説を読むときはストーリーを追うことに夢中で、
風景描写を軽視してしまう傾向があり、時には斜め読みさえしてしまうのだが、
この小説は真逆だった。

「こんな有名な作品の良さがわからないなんて、文学を読む資格なし!」と言われれば
返す言葉が無いのだけど、退屈だったのだからしょうがない。
評価は星2つにしたいところ、文章の美しさで+1個。星3つにします。


<オススメ度>★★★
[PR]
by komuro-1979 | 2005-02-05 18:02 | 日本の小説

「ナナ(下)」 ゾラ 新潮文庫

下巻を読了。

下巻では、ナナがその高級娼婦としての本領をいかんなく発揮する。
彼女が周りの男達の金を絞りとり、次々と破産させてゆく様子はすさまじい。
例えば、

「男たちは次から次に金をまきあげられて、死屍累々と横たわったが、
彼女の贅沢に地響きたてながら屋敷の床下に絶えず掘りさげられてゆく穴を
うめることはできなかった。」(224頁)
「ナナは数ヶ月のあいだ次々と彼らをむさぼり食った。
奢侈な生活のますます増大する需要のために、彼女の欲望は熾烈となり、
彼女は一口で男を丸裸にした。」(255頁)
「破産した男はまるで熟れた果実のようにナナの手から落ちて、
みずから地面で腐っていった。」(255頁)

・・・などなど、
まるでナナが化け物であるかのような描写が続く。
たしかにナナは無邪気で気分屋で男好きでどうしようもない浪費家だが、
決して性格最悪の極悪人というわけではない。
取り巻きの男達が次々と没落していく様子を見て
自責の念に囚われるなど、
情に厚い面もあり、非常に魅力的な女性として描かれている。

ミュファをはじめとする男たちは、
ナナと手を切ろうと苦心するのだが、結局はナナの魅力の前に屈服し、地獄に直行する。
男達がナナによって次々と破滅していく様子は爽快感さえある。
「揃いも揃って懲りない男達だなぁ~」と思いつつ読んでいたが、
彼らの気持ちは分からないでもないので、笑う気にはなれなかった・・・。

そしてラスト(以下、ネタばれ注意)。
あの魅力的なナナの最後としてはあまりにあっけない。
病気に感染することを恐れ、病室に近づこうともしない知人達。
かつてあれだけナナで夢中だった世間の人々は、
今は迫りくる戦争のことで熱狂し、ナナのことは忘れ去られてしまった。
病室に届いてくる「ベルリンへ!」という叫び声が
ナナに対する世間の無関心さを表しているように感じた。
思えばナナは、贅沢で華やかな生活のなかでも
時折孤独を感じていた。そして死ぬときもやはり孤独だった。
ナナという人生は一夜の夢のごとく、
非常にはかなくて寂しいものだったように感じた。


<オススメ度>★★★★
[PR]
by komuro-1979 | 2005-02-02 13:47 | フランスの小説