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「リヴァイアサン」 ポール・オースター 新潮文庫

ポール・オースターの作品を読むのはこれで2作目。
前に読んだ「幽霊たち」が面白かったので
作者のほかの作品も読んでみようとこの本を手にとった。

物語は、一人の男が道端で爆死する(製作中の爆弾が爆発)というニュースから始まる。
警察の捜査によって男の身元が判明する前に、
主人公はこの男が自分の友人であるサックスだと直感する。
どうしてサックスはそこで爆死する運命にあったのか。
物語は主人公の過去の回想という形をとって
死に至るまでのサックスの軌跡が明かされていく・・・。

「幽霊たち」の感想でも書いたけど、作者の表現力には感心した。
状況や人の心理の分析が非常にうまい。
でもただその分析結果を提示するだけではなく、
それに比喩などの文学的表現を加えることによって、
スマートでカッコイイ独特の世界観が形作られている。
こういう世界観を作る作家と言えば、他に村上春樹が思いつくが、
村上春樹の小説は僕には肌が合わないことが多い。
知識をひけらかすところとか、俺ってオシャレ?みたいな雰囲気が作中に漂っている気がして
どうも鼻につくのだ。(ファンの人、ごめんなさい)
一方、オースターの作品ではそういうところはまったくない。
無駄を削ぎ落とし、ひたすら物事の本質をつくカッコよさが感じられる。

ストーリーの展開は上で言ったように、
主人公がサックスとその友人達を回想し、様々な出来事を振り返ることによって
サックスの人物像と事件の謎に迫る形になっている。
だから小説が面白いかどうかは
これらの登場人物に対して読者が興味を持つかによるのだが、
どの人物も強烈な個性があり、一人一人について小説が書けそうなくらい魅力的に感じた。
このような魅力的な登場人物たちがサックスと相互に影響を与え合って
物語が進行していくという小説の構成は、緻密かつダイナミックに感じた。

サックスとその愉快な仲間達による和気藹々ムードは
彼の身に起こった事故によってとつぜん終わる。
たしかに大きな事故ではあったが、
普通なら肉体的な傷が癒えれば本人も周囲も忘れてしまうような事故のはずだった。
だが、サックスはこの事故に重大な意味を見出す。
ここからサックスの人生は劇的に変化し、最終的には死に至るのだが、
そこに至るまでの経緯がとても痛々しかった。
内省的で自分に厳しいがゆえに心に弾力性がなく、
一度正常に戻れる道を踏み外すと歯止めが効かない。
もちろん不幸な偶然の連続もあった。
そして信頼していた人間の裏切りも・・・。
主人公はじめ、サックスとあれだけ仲が良かった友人達が、
彼を救えないばかりか彼の転落の原因になったりしてしまったのはやりきれなかった。
作者の心理描写がうまいだけに胸にグサッとくるものがある。


<オススメ度>★★★★
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by komuro-1979 | 2004-12-29 13:58 | アメリカの小説

「車輪の下」 ヘルマン・ヘッセ 新潮文庫

(あらすじ)
主人公ハンスはもともと自然と戯れるのが大好きな少年であったが、
勉強の才があったためにより上の教育を目指し、勉強漬けの日々を送る。
親や教師の過度の期待によるプレッシャーに苦しみつつも、
猛勉強の末に難関と言われる神学校に入学したが、
そこでの人の個性を認めない学力第一主義の教育によって
彼の心はズタズタに引き裂かれてしまう・・・。

この小説は作者の自伝的小説だそうだが、
ハンスの体験した過酷な受験勉強とプレッシャーや、
勉強のために無理をして様々な遊びを我慢したり、友人と勉強とを秤にかけたり、
今とは違う楽しかった幼少時代を思い出し、
悲しみにくれることなどは僕自身も体験した事であり、
苦しむハンスの姿を通じて自分の受験時代を思い出してしまって胃が痛くなりそうだった。
学力重視の学校教育と、
成績をあげることだけを求め、子供心を理解しようとしない親や教師たち。
それがどれだけ子供の健やかな成長を妨げる事か。
ハンスが可哀想でならなかった。

そういう点でハンスに感情移入できたが、
ストーリー自体はそれほど面白いとは感じなかった。
特にハンスが習った勉強に関する記述と自然描写が多く出てくるが、
それを読むのは退屈だった。

受験を控えた子供を持つ親や教師たちにはぜひ読んで欲しいと思うけど、
それ以外の人間が読んでも自分の苦しい受験時代を思い出して気が落ち込むし、
まして今、受験生活を送っている高校生などが読んだら、
ハンスの末路に憂鬱になってしまうのではないかと思った。
(個人的な感想ですのであしからず・・・)


<オススメ度>★★★
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by komuro-1979 | 2004-12-17 18:56 | ドイツの小説

「幽霊たち」 ポール・オースター 新潮文庫

長編小説を読んで疲れたから短編小説。
というわけで、ポール・オースターの「幽霊たち」を読んだ。
122ページの短い物語だ。

(あらすじ)
私立探偵のブルーが、依頼人からブラックを秘密裏に見張るように頼まれ、
ブルーはブラックの住む建物の真向かいにある建物に移り住み、そこから彼を見張り始める。
ところがブラックは部屋に篭り、ひたすら何かを読んで書くだけの単調すぎる日々を送るだけ。
ブルーは次第に孤独や不安に悩まされ、依頼者への不信感を抱き、
ついにはブラックに接触してみようと試みる・・・。

ブラックが全く動きを見せず、事件らしい事件は何も起こらないので、
ブルーの思考は次第に自分の内面へと向かう。
ブルーの感じる孤独や不安、ブラックに対する親近感と疎外感、
そして停滞している現状に対する疲労と焦燥感を、
作者は切れ味鋭い言葉で描きだしている。
物語の大半はブルーの心理描写であるにもかかわらず、
読んでいて全く飽きが来ないのが不思議だ。
作中に様々なエピソードが挿入されたり、
日常のなんでもない現象を、作者がブルーの目を通じて
新たな視点から捉えなおす記述がたくさんあるのだが、
それらにとてもセンスを感じる。
思わずメモをとりたくなってしまうようなフレーズがたくさんあった。

この作品で特徴的なのは、主要登場人物の名前が色の名前になっていること。
これはとても新鮮だった。
名前を色に変えるだけで、これほど人の存在感が消えるとは思わなかった。
自分を見失い存在が希薄化していくブルーと、もともと存在が希薄なブラック。
自分の存在を確かめるために苦闘した2人の物語とその結末に、どこか寂しさを感じた。

短いけれど中身が詰まったセンスの良い小説。
オススメです。

<オススメ度>★★★★
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by komuro-1979 | 2004-12-13 01:38 | アメリカの小説

「悪霊(下)」 ドストエフスキー 新潮文庫

上巻は全般的に退屈であったため、
下巻もこの調子ならばひょっとしたら挫折してしまうかもしれない
という不安を抱えつつ読み始めた。

下巻の序盤もやはり退屈だった。
上巻から下巻の序盤までなぜ退屈だったのか自分なりに考えてみると、
ストーリの進みが遅いというのもあるが、
主要な登場人物たちの抱く思想についての理解が
十分にできてないことが一番の原因だと思った。
当時のロシアの社会状況や思想などが全く分からないので、
なぜこの登場人物がこういう思想を持ちはじめたのか、
またその思想は当時のロシア社会のなかではどのような評価を与えられるのか、
それが良く分からなかった。
だからその思想に基づく行動も、周りの人間の受け止め方も十分に理解できず、
結果としてなんだかよく分からないまま物語が進んでしまうのだ。

もっとも、第三章の「祭り」が始まるあたりから
ストーリーが急な展開を見せるため、一気に面白くなる。
ここで印象に残ったのは、ピョートルの作った組織だ。
あのような反社会的組織の結束を維持することの困難さと、
思想に狂い良心を忘れたメンバー達の残酷さといったらない。
スタヴローギンが、
「組織の結束を強めたいなら、メンバーの一人を密告を理由に殺せばいい」
といった趣旨の発言をしたときにはゾッとした。

第三章あたりから最後まで、
登場人物たちの織り成す人間模様の壮絶さと事件の残酷さに惹きこまれて、
時間を忘れてページを繰ってしまう。
キリーロフという人間の思想とそれに基づく自殺シーンは迫力がありすぎて
背筋が寒くなったほどだ。

ところで、最重要人物であるスタヴローギンについて
イマイチ良く理解できないままに小説は終わってしまうのだが、
巻末に収録されていた「スタヴローギンの告白」の章を読んではじめて
彼の物語がつながった気がした。
この章は小説が雑誌に連載されていた当時、編集長が雑誌への掲載を拒否したために、
作者の生存中には日の目を見ることがなかったそうだが、
この章がなかったら小説の楽しみが半減してしまうところだった。

・・・というわけで、この小説は非常に面白かった。
面白かったが、1回読んだだけでこの小説の面白さが完全に理解できたとは到底思えない。
思えば前半部分には後半に起こる事件のたくさんの伏線があった気がする。
また、スタヴローギンの人間性が見えたところで、
小説の最初から彼の行動を追いかけて見たいと思った。
これほど「もう一度読み直したい」と強く思った小説は初めてだ。

オススメ度は・・・どうしよう。
小説前半の退屈さは後半の面白さによって完全に打ち消されるのだが、
面白くなるまでに僕は721ページほどかかったために、
正直なかなかオススメしにくい。
星は4つにしておきます。


<オススメ度>★★★★
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by komuro-1979 | 2004-12-11 04:13 | ロシアの小説

「悪霊(上)」 ドストエフスキー 新潮文庫

「悪霊」の上巻を読み終わった。
読むのに時間がかかったせいで、
前回の更新からだいぶ間が空いてしまった・・・。

あらすじは・・・ごちゃごちゃしてて紹介するのが難しい。
小説の表紙を参考にすると、
「無神論的革命思想を悪霊に見たて、それに憑かれた人々とその破滅を、実在の事件をもとに描いた」作品なのだそうだ。

物語は「私」の視点で書かれている。
序盤は主に、物語の主要登場人物の紹介ばかりで飽きてしまう。
また、「私」は序盤で起こる事件の中心人物ではないせいで、
この「私」ともども読者も、起こった事件の概要がなかなかつかめずストレスがたまる。
最初は正直退屈だった。

でも、最重要人物であるスタヴローギンが登場するあたりから、だんだんと面白くなってくる。
スタヴローギンは物腰が優雅で思慮深い青年紳士と思われていたが、
突然なんの脈略もなく、
「わしの鼻面をつかんで引きまわすなんてできることじゃない!」が口癖の老人の
鼻面をつかんでひきまわしたり、内緒話をする振りをして知事の耳に噛み付いたりするのだ。
その行動の意外性と意味不明さに面食らい、
自然とこの人物に対する興味をもってしまう。
物語が進むにつれてだんだんとこの人物の意外な性情が分かってくるのが面白い。

無神論がテーマであるみたいだけど、
正直無神論についていまいちピンとこなかった。
日常であまり考えた事のないテーマだから
自分の頭のなかに思考の道具がないのだ。
もちろん自分の頭が悪いせいもある。
シャートフとスタヴローギンの対話は迫力があって
この上巻のなかでの見せ場のひとつなんだろうなーと思ったけど、
言ってる内容を十分に理解できなかったのが残念だった。

スタヴローギンをはじめとする物語の登場人物は、
みんなどこか性格的に変わっている。
それが独特の世界観を作り出しているのだが、
この陰気で気が狂うような世界観は、合わないひとは合わないだろうと思った。
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by komuro-1979 | 2004-12-03 01:08 | ロシアの小説