<   2004年 11月 ( 8 )   > この月の画像一覧

「女の一生」 モーパッサン 新潮文庫

修道院で教育を受けた善良で清純な娘ジャンヌは、
詩的で美しく、幸せに満ちた恋愛と結婚生活を想像するも、
夫や子供に裏切られ苦難の生活を送るという話。

全般的に自然描写が多い気がした。
それはそれでいいのだが、そのせいで序盤はなかなか話が進まず退屈に感じた。
だが、ジャンヌが結婚し、夫の本性が現れてくるあたりから一気に面白くなる。

ジャンヌは修道院で世間から隔離された生活を送っていたため、
善良で純粋で穢れを知らない、悪く言えば世間知らずの娘として登場する。
彼女は自分の幸せな将来を信じて疑わず、
将来の恋人との詩的で精神的な恋愛を夢に見る。
そんなジャンヌの夢がまず夫によって破壊される。
絶望のふちから立ち直ろうとしてなんとか新たな慰めを見つけるも、
それもまた破壊され、さらに最後の心のよりどころであった息子にも裏切られる。
言わば彼女の人生は裏切りと絶望の連続だ。
だから読んでて気分は暗い。
気分は暗いのだが、続きが気になり夢中で読んでしまう。

ジャンヌの体験した事件は、ドラマや小説などでよく見るありふれたものだ。
だけど読んでるうちにすっかりジャンヌに感情移入してしまうために、
それらがとてつもなく重大で許しがたい事件のように感じ、
事件の張本人に怒りを感じると共に、不幸なジャンヌに心から同情してしまう。
読者を作品に引き込む作者の力量の凄さを感じた。


・・・

オススメ度は久々の星5つ(やや甘め)。
上の感想だけだと、まったくもって絶望的な話のように思えますが、
終盤にやや救いがあるので読後感はそれほど悪くありません。
ただ解説が言うように、この救いも新たな裏切りと絶望のはじまりになりそうな
予感がしてしまうのはどうしてでしょうか・・・。


<オススメ度>★★★★★
[PR]
by komuro-1979 | 2004-11-20 18:07 | フランスの小説

「貧しき人びと」 ドストエフスキー 新潮文庫

世間から侮蔑の目で見られている小心で善良な小役人マカールと
薄幸の乙女ワーレンカの往復書簡の体裁をとった小説。
表紙には2人の恋の物語と書かれているが、
2人は歳が離れ遠い親戚関係にあり、
ワーレンカのマカールに対する気持ちは恋というよりも、
面倒を見てくれるマカールへの感謝からくる尊敬と親近感のように感じた。

今まで読んだドストエフスキーの小説の中ではダントツに読みやすかった。
それは作者の他の作品のような、
物語の流れを度外視した哲学的会話の連続がないからだと思う。
だからドストエフスキーらしさがあまり感じられなかった。

マカールは貧困のせいで人間的な誇りを傷つけられ、
精神的に追い詰められていく。
何度かその状況から脱出するきっかけを掴むが、
彼の人間的な弱さのせいでそれを逃し、さらに貧困化し精神が不安定化する。
彼が仕事上の失敗をして閣下の前に引き出されたときの
みじめな姿の描写は本当に悲惨で強く印象に残った。
貧困は人間をここまでみじめにさせるものなのだろうか・・・。

結局、マカールは閣下の施しによって貧困から救われるのだが、
一方で心の支えだったワーレンカを失ってしまうのがやりきれなかった。
ワーレンカに対するマカールの最後の手紙は
彼女に対する押さえ切れない愛情と、
心の支えを失う事への恐怖が渾然一体となった悲痛な叫びだった。

それにしても、あのどうしようもない貧困と精神的苦痛から彼を救ったのが
やっぱりお金で、それも閣下のお情けであったというのは、救われない。
ワーレンカがマカールのもとを去ってしまったのがやはり経済的な理由であり、
マカールの愛情ではワーレンカの貧困による苦しみを埋めることができなかったのも悲しい。
世の中やっぱり金・・・なのか?

・・・
オススメ度は星3つにします。
物語の終盤までは、つまらなくはないにせよ平坦で盛り上がりに欠けると感じました。
だから上に感想に書いた部分以外はほとんど印象に残っていません・・・。
また、貧困による生活の悲惨さがこの小説のメインテーマと思われますが、
その点ではゾラの「居酒屋」の方が迫力がある気がします。


<オススメ度>★★★
[PR]
by komuro-1979 | 2004-11-17 19:16 | ロシアの小説

「ヴェニスに死す」 トオマス・マン 岩波文庫

初老の作家アッシェンバッハが、
旅行先のヴェニスで出会った美少年タッジオに恋するという話。

全167ページで薄い本なのだが、読むのに時間がかかった。
全体を通して抽象的な言葉や難しい言い回しに溢れ、
文章が非常に読みにくかったからだ。
特に第二章はそれが顕著で、
分かるようで分からない抽象的な言葉のオンパレードに頭がすっかり混乱し、
本を引き裂き窓から投げ捨てたいという誘惑に駆られた。

老人男性が美少年に恋するというストーリーはキモイようだが、
タッジオの姿がギリシア彫像のように美しく描かれており、
あたかも芸術作品に恋しているような感じを受けるので、あまりキモイと感じなかった。

恋愛に夢中になっているアッシェンバッハの心理描写は非常に理屈っぽいのだが、
とても正確で本質を捉えていると思った。
自分の経験上、恋愛している時に感じる不安や嫉妬や陶酔状態などは
漠然としていて捉えがたく、言語化なんてとてもできそうになく思われるのだが、
作者は作品の中でそれを見事に分析し言語化して提示してくれる。
それが当を得ているので、読んでてうなることがたくさんあった。

ストーリの展開はテンポがよくて、中だるみしない。
結局アッシェンバッハは恋愛にかまけて仕事を投げ出し、
危機管理を怠って最後は死んでしまうのだが、
そこまでの展開が自然でしかも美しかった。
特にラストは美しい。
読み終わった後さわやかな気分になった。


・・・
オススメ度は星3つとしておきます。
まず第ニ章が非常に分かりにくい。
そして心理描写の理屈っぽさと難しい言い回しは、
好き嫌いが分かれると思うので万人にはオススメできません。
でも個人的にはこの小説はかなり面白かったです。


<オススメ度>★★★
[PR]
by komuro-1979 | 2004-11-15 16:03 | ドイツの小説

「クリスマス・カロル」 ディケンズ 新潮文庫

ケチで冷酷で人間嫌いのスクルージ老人が、
クリスマスイブの夜、3人の幽霊と出会って様々な体験をし、
改心するという話。151ページ。

まるでテレビの時代劇を見ているような、
非常に分かりやすいストーリ展開。
それに伴う安心感。
読んでて心が温かくなる内容だ。

だけど、それだけだなぁ。
特に目を瞠るものはなかった。
つまんなくはないんだけどね。

ちょっと読む時期が早かった気がする。
今だと季節外れ感がある。
クリスマス間近に読めば、
クリスマス気分が味わえてより一層楽しめたのかもしれない。


<オススメ度>★★★
[PR]
by komuro-1979 | 2004-11-11 22:27 | イギリスの小説

「イワン・イリッチの死」 トルストイ 岩波文庫

104ページの薄い本。
一官吏が不治の病にかかって、肉体的・精神的苦痛を味わいながら
死と向かい合い、死ぬという話。

薄いのですぐ読み終わったが、
内容が濃くて消化し切れなかった。

彼は死の床の中で、自分の今までの人生がすべて間違っていたことを認める。
その上で、「本当のことをすることもできる」「まだ取り返しはつく」(100頁)との
思いを抱くのだが、結局それが何を意味するのかが良く分からなかった。
その文の直後に「家族を苦しめたくない」という思いが書かれているが、
それは「本当のこと」の例示の一つにすぎないと思われる。
「本当のこと」ってなんだろう?
「他人を思いやる心」?
より一般的に、「善良な心」?
う~ん・・・。
これが分からないと、彼が最後に死の恐怖を忘れ、
安らかな気持ちで死ねたことがよく理解できないのが辛い。

そもそも、彼の人生のどこが間違っていたのだろう?
まったくもって普通の人生だったと思える。
彼の人生が間違っているのなら、間違っていない人生とは一体どんなものだろう?

そこら辺が良く分からなかった。
そのうちもう一度読んでみようと思う。


<オススメ度>★★★
[PR]
by komuro-1979 | 2004-11-10 01:44 | ロシアの小説

「クロイツェル・ソナタ 悪魔」 トルストイ 新潮文庫

1冊に「クロイツェル・ソナタ」と「悪魔」という短編が収録されている。(215ページ)
両方とも性的欲望を中心テーマに扱っている。

「クロイツェル・ソナタ」は、
妻殺しをした人間が自分の恋愛観・結婚観を交えつつ、
妻を殺すに至った経緯と動機を語っていくという話。
その恋愛観と結婚観は、
恋愛と結婚の負の部分のみを基礎にして出来上がっているために極端に感じるが、
自分の中で否定できないものがかなりあるのが悲しい。
全体としてマイナスオーラが漂っているため、読んでて陰鬱な気分になるが、
主張は一貫していて非常に迫力がある。
また、妻殺しにいたるまでの話のもっていきかたが上手く、読者を飽きさせない。

「悪魔」は、幸せな結婚生活を送る男が、
結婚前に関係をもった女性に対する性的欲望を抑えられず、
悩んで苦しんだ挙句に○○するという話。
こちらは「クロイツェル・ソナタ」と違って作者の恋愛観を前面に押し出さず、
物語性を重視しているために読みやすい。

しかし、もしこの男と似た状況に陥ってしまった場合、一体どうすればいいのだろうか?
僕はこの男の出した結論はとれそうもない。
作者は性的欲望を蔑視しているために、こういう悲劇的な結末にもっていったのだろうが、
作者の理想とする恋愛観は、多くの人にとって受け入れがたいんじゃないかと感じた。

もっとも、性的欲望が様々な不幸や悲劇を生み出す事はもちろん否定しないので、
そのような一例として読まれるべき作品だと思った。


<オススメ度>★★★★
[PR]
by komuro-1979 | 2004-11-09 00:59 | ロシアの小説

「人はなんで生きるか 他四篇」 トルストイ 岩波文庫

民話集。
「人はなんで生きるか」の他に4つの話が収録されている。
189ページの薄い本なので一気に読めた。

どの話もテーマはほぼ同じ。
キリスト教の教えに従い善を行えば、
生活はより豊かになり、幸せになれるというもの。
それが5つの話を通じて繰り返される。

テーマは単純だが、どの話も非常によく出来ていて含蓄がある。
読んでいて心が洗われる感じだ。
下手な自己啓発書を読むより、これを読むほうがよっぽどいい。

収録されているどの話も面白いが、
個人的には他人を許すことの重要さを語った
「火を粗末にすると消せなくなる」が特に気に入った。

・・・
オススメ度は星4つにします。
非常に読みやすく分かりやすいし、
キリスト教徒でなくとも十分楽しめる内容です。
ただ、道徳臭さが苦手な人には向きませんが。

人間関係に悩み、疲れてしまった人に特にオススメです。

<オススメ度>★★★★
[PR]
by komuro-1979 | 2004-11-04 16:10 | ロシアの小説

「復活(下)」 トルストイ 新潮文庫

下巻を読み終わった。

上巻に引き続き下巻でも、善に目覚めたネフリュードフが
カチューシャの身柄を解放するために奔走している間に感じた
社会制度の偽善・欺瞞・不合理について、延々と描写される。

下巻では刑事司法作用に対する批判に特に力が入れられていた。
刑務所での囚人達の取り扱いの悲惨さや、
懲役刑の無意味さに対する描写は非常に迫力があった。
この点は、現代の日本の刑事司法についても当てはまる部分があると思った。
だが、その他の社会制度、例えば地主制度や貴族制度については
当然のことながら読んでていまいちピンとこなかった。

善良な眼、道徳的な眼でこの世の中を見渡してみると、世界は嘘と欺瞞に満ちている。
多くの人はそれに気づかないか、または気づこうとしない。
そして気づいたとしても「世の中そういうものだ」と
割り切って、釈然としないながらも受け入れ、思考の外に置いてしまう。
この物語のネフリュードフはそうはしなかった。
嘘や欺瞞に正面からぶつかって悩み、
虐げられていた人を救うするにはどうすればよいか必死で考えたのだ。

そこまではよかった。
だけど彼が悩んで出した解決法はちょっと期待はずれだった。
あまりに理想的で、実現は絶対に不可能と思えるからだ。
(どんな結論を出したかは是非読んでみてください。)
彼がどんな結論を出すかずっと期待していただけに、非常に残念だった。

あと、個人的にはカチューシャが
ただネフリュードフの善の本性を呼び戻し、
彼に社会の不正を暴かせるだけのただの道具に過ぎないように思えたのが残念だった。
最後の方のカチューシャとのやりとりなどは、単なるおまけみたいに感じた。
2人の愛についての描写がもっとあったらよかったと個人的には思った。
(作者の力点はそこにはなかっただけなのだろうが、やっぱり寂しく感じる。)


・・・
オススメ度は、星三つにしておきます。
糾弾される社会制度に馴染みがないものが多かったのと、
ネフリュードフの結論が納得できなかったこと、
そしてカチューシャの描写が少なかったことが残念でした。

ただ、社会制度について馴染みがないといっても、
ある程度は自分達にも当てはまるものがあり、
それらに対するネフリュードフの考察は
現代の社会制度について深く考えるうえで非常に参考になることは確かです。

テーマが分かりやすく文章も読みやすいので、気軽に読めると思います。
関心のある方は是非手にとってみてください

<オススメ度>★★★
[PR]
by komuro-1979 | 2004-11-03 01:33 | ロシアの小説