カテゴリ:ロシアの小説( 28 )

「二重人格」 ドストエフスキー 岩波文庫

(あらすじ)
主人公ゴリャートキンは小心で引っこみ思案,そして才能も家柄もない典型的小役人。自分の性格や今自分の置かれている現状に比し,出世して人生の成功者になりたいという欲望はあまりに大きく,そのギャップに苦しんで精神的に病んでしまった結果,もう一人の自分という幻覚を作り出してしまう・・・。

もう一人の自分(新ゴリャートキン)は,快活で人当たりがよく,ゴマすりもうまい。本当の自分とは正反対であり,こうありたいと常々思っている自己の姿をまさに体現している。そんな新ゴリャートキンに,役所での自分の地位を次々と奪われて嫉妬し,段々と精神的に病んでいく過程が描かれているのだが,結論的に読んでてやや退屈という印象を受けた。

ゴリャートキンが新ゴリャートキンを憎み,復讐をしてやろうと思いつつも,いざ彼を前にすると,その小心さからか怖気づき,自分が悪かったと謝ったうえで相手の機嫌までとり始める。そういったゴリャートキンの人物像や,簡単には割り切れない人間の微妙な心理,理想と現実に苦しむ様子などを,非常に上手く描いている。
しかし,ストーリーが同じパターンの繰り返し(新ゴリャートキンが旧ゴリャートキンに嫌がらせ→新ゴリャートキンが出世→嫉妬,憎しみ→出世を妨げようと働きかける→失敗→新ゴリャートキンに許しを請う)であるうえ,個々のパターンにおけるゴリャートキンの内心の葛藤の描写があまりに長く,326ページ読み終えるまでやたら長く感じる。半分ぐらいの分量にすればすっきりまとまるのに・・・と思ってしまった。


<オススメ度>★★★
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by komuro-1979 | 2007-01-08 19:31 | ロシアの小説

「永遠の夫」 ドストエフスキー 新潮文庫

(あらすじ)
妻がつぎつぎに愛人を替えていく中、夫という位置にしがみつくことしかできない男トルソーツキイ。妻の死後、彼はかつて妻の愛人であった主人公の下に現れ、理解不能な言動を繰り返す・・・。

トルソーツキイの、主人公に対する復讐心と尊敬の心。
この矛盾する心のせめぎあいが、彼の意味不明な言動となって表出する。
最初はその言動のあまりの突拍子のなさに、ただただ滑稽だと感じたのだけれど、
だんだんと痛々しく思えてきて、最後には憐憫の情さえ感じてしまう。
人間の感情とそれに基づく行動は、時として理性を裏切り、前後に矛盾する。
それをここまで狂気的に描けるのは、すごいと思った。

ただ、ラストは、お互い「抱き合って、泣」いて欲しかったかなぁ・・・(笑)

<オススメ度>★★★★
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by komuro-1979 | 2005-11-28 01:43 | ロシアの小説

「外套・鼻」 ゴーゴリ 岩波文庫

「外套」と「鼻」が収録されている。
100ページぐらいなので、1時間半ぐらいで読み終わってしまった。

「外套」は、貧しい下級役人が、なけなしのお金で外套を新調するが、
その外套がもとで不幸に見舞われるという話。
主人公の仕事と生活は、あまりにも単調で機械的。
しかも安月給で生活は非常に貧しい。
そんな苦しい状況の中でも、充実した気持ちで日々を送る主人公の姿が、
どこかユーモラスに描かれていたのが印象に残った。
作者のユーモアと皮肉の効いた文は、自分のつぼにはまったが、
ストーリー自体は別に面白くもなく、つまらなくもないといったところ。
巻末の解説を読んで、
「これはすごい作品なんだなぁ、自分には分からなかったけど」と思って読了。

「鼻」は、朝起きると鼻が無くなっていることに気付き、
鼻を追って奔走する小役人の話。
面白いか・・・これ?
この作品については、巻末で解説がほとんどなされていないために、
どこにこの作品のポイントがあるのか、結局最後まで分からなかった。
読後、書評サイトを巡回してみると、
絶賛しているひとが多かったことを考えると、
自分の感性が人とズレているのかもしれない。
個人的にはつまらなかった。


<オススメ度>★★
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by komuro-1979 | 2005-09-21 01:08 | ロシアの小説

「死の家の記録」 ドストエフスキー 新潮文庫

(あらすじ)
思想犯として逮捕され、シベリア流刑に処せられた作者が
4年間の獄中生活で体験した出来事と見聞の記録。

物語に起伏がなく、途中でややダレてしまった。
監獄内の規則や労働内容の描写はそれ自体としては退屈であるし、
また、囚人達が監獄に入れられた経緯について様々なケースが描かれているのだが、
残念ながらその中で興味を引くものは少なかった。

そんな中、印象に残ったのは、風呂場のシーン。
細かいところまで正確に描写しているために、
読んでて思わず、むさくるしい男達が狭い浴室にぎゅうぎゅう詰めになって
垢まみれの体を洗い流している様子を想像してしまい、
そのおぞましさに寒気がした。

あと、クリスマス。
囚人達は、普段はお互い罵り合い、いざこざが絶えないのに、
クリスマスだけは全員一致で厳粛な気持ちになって心穏やかに祝う様子は、
どこか不思議で面白く思った。

作者はこのような監獄内での出来事を通じて、囚人達の心理を細かく分析している。
彼らの心理は、一般人の感覚からすれば矛盾しているように思えたり、
不思議で理解しにくいものばかりであって、読んでてとても新鮮で興味深かった。
これらの心理描写は、作者が実際に監獄に入って囚人達と生活を共にしたことから
説得力があり、緻密だ。その点で読む価値は高いと思う。
ただ、小説全体としてはそういう心理分析よりも、
出来事などの客観的描写にやや余計に力点が置かれており、
そこが僕にとって読んでてダレる原因になってしまったのが残念に思った。


<オススメ度>★★★
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by komuro-1979 | 2005-08-07 18:30 | ロシアの小説

「はつ恋」 ツルゲーネフ 新潮文庫

(あらすじ)
16歳のウラジミールは別荘に滞在中、年上の令嬢ジナイーダと出会い恋に落ちる。
初めての恋であり、片思いであることもあって、
彼は気も狂わんばかりの日々を送るも、その恋は意外な結末を迎える・・・。

初恋の荒々しさ。向こう見ずさ。不安や葛藤。
そして片思いであることの辛さ。
そういうものがほんとに上手く表現されていると思った。
男の恋心をうまく操るジナイーダの一挙手一投足に
心をかき乱されるウラジミールの姿に、いつかの自分の姿を重ね合わせてしまった。

好きになった相手の前では、自分の立場はほんとに弱い。相手の奴隷といってもよい。
相手の何気ない些細な言動に一喜一憂したり、
ささいな表情の変化に疑心暗鬼になり、その奥にある深い意味を見出そうと、
無駄な努力に骨を折る。
好きな人のことを想って勉強や仕事は手につかず、
日常生活は全て好きな人中心で回ってしまう。
でもそれは辛くもあるが、それで充実しているのだ。

そんな自分の恋愛の記憶をウラジミールを通じて思い出し、
物語の後半、大人になって初恋を振り返ったウラジミールと同じく、
なんともいえないほろ苦い気持ちになってしまった。

・・・
というわけで、非常に良く出来た小説だと思います。
分量が少ないし、難解さが全くないので誰にでもオススメできます。
今現在、恋愛中の人は特に感情移入して読むことが出来ると思いますよ~。


<オススメ度>★★★★★
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by komuro-1979 | 2005-07-19 17:54 | ロシアの小説

「地下室の手記」 ドストエフスキー 新潮文庫

極端な自意識過剰から一般社会との関係を絶ち、
地下室に籠もった官吏の手記という形式をとった小説。
2部構成で、1部は人間の本性は非合理だということが主人公の口を通して延々と語られ、
2部は主人公の若かりし頃のエピソードとなっている。

読み始めてまず、主人公の強烈な個性に圧倒される。
自負心、虚栄心の固まりのような男。
そして小心者で自虐的。気分屋で激情家。空想癖もある。
そのうえ皮肉屋で毒舌で説教好きときている。
こんな奴とは絶対に友達になれない(笑)
手のつけられない男だ。

だけど、決して嫌悪感は抱かなかった。
というのは、この主人公の中に自分を見出す事が多分にあって、
良くも悪くも親近感を感じてしまったからだと思う。
世間とうまく折り合いのつけられないこの主人公の心理に共感する部分があり、
また、そのどうしようもない性格の一部が自分の中にもあることを認めざるを得ないのだ。

第1部では、こんな非合理の固まりのような男が
人間の本性は非合理である事を語りまくる。
その毒舌っぷりはすさまじい。ひたすら圧倒される。

そして第2部。
この主人公に関するエピソードなのだから、
読む前から、毒にまみれ、醜悪で、暗い話なんだろうなぁと予測はつく。
・・・実際、その通りなのだが、「醜悪」と一言で片付けられないものがある。
誰もが持ちうる負の感情(それも最底辺の感情)の発現であり、
読者はそれと向き合う事を強制されるのだ。
人によっては、自分の中に眠っていた醜悪なものを直視させられて
気分が悪くなってしまうのではないか?とさえ感じた。
それもこれも、人間の負の感情を直視しそれを表現する、
作者の人間観察力と描写力があってのこと。
その技術はもはや神の域に達していると思ったり。

・・・
結論として、非常に面白かったです。
個人的には「罪と罰」に匹敵するぐらいの面白さがあると思いました。
文章も読みやすく、薄いので、
ドストエフスキー入門に適しているのではないでしょうか。
ただ、この小説の持つ「毒」はすごいものがあり、
万人にオススメというわけではありませんが・・・。


<オススメ度>★★★★
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by komuro-1979 | 2005-01-18 18:20 | ロシアの小説

「悪霊(下)」 ドストエフスキー 新潮文庫

上巻は全般的に退屈であったため、
下巻もこの調子ならばひょっとしたら挫折してしまうかもしれない
という不安を抱えつつ読み始めた。

下巻の序盤もやはり退屈だった。
上巻から下巻の序盤までなぜ退屈だったのか自分なりに考えてみると、
ストーリの進みが遅いというのもあるが、
主要な登場人物たちの抱く思想についての理解が
十分にできてないことが一番の原因だと思った。
当時のロシアの社会状況や思想などが全く分からないので、
なぜこの登場人物がこういう思想を持ちはじめたのか、
またその思想は当時のロシア社会のなかではどのような評価を与えられるのか、
それが良く分からなかった。
だからその思想に基づく行動も、周りの人間の受け止め方も十分に理解できず、
結果としてなんだかよく分からないまま物語が進んでしまうのだ。

もっとも、第三章の「祭り」が始まるあたりから
ストーリーが急な展開を見せるため、一気に面白くなる。
ここで印象に残ったのは、ピョートルの作った組織だ。
あのような反社会的組織の結束を維持することの困難さと、
思想に狂い良心を忘れたメンバー達の残酷さといったらない。
スタヴローギンが、
「組織の結束を強めたいなら、メンバーの一人を密告を理由に殺せばいい」
といった趣旨の発言をしたときにはゾッとした。

第三章あたりから最後まで、
登場人物たちの織り成す人間模様の壮絶さと事件の残酷さに惹きこまれて、
時間を忘れてページを繰ってしまう。
キリーロフという人間の思想とそれに基づく自殺シーンは迫力がありすぎて
背筋が寒くなったほどだ。

ところで、最重要人物であるスタヴローギンについて
イマイチ良く理解できないままに小説は終わってしまうのだが、
巻末に収録されていた「スタヴローギンの告白」の章を読んではじめて
彼の物語がつながった気がした。
この章は小説が雑誌に連載されていた当時、編集長が雑誌への掲載を拒否したために、
作者の生存中には日の目を見ることがなかったそうだが、
この章がなかったら小説の楽しみが半減してしまうところだった。

・・・というわけで、この小説は非常に面白かった。
面白かったが、1回読んだだけでこの小説の面白さが完全に理解できたとは到底思えない。
思えば前半部分には後半に起こる事件のたくさんの伏線があった気がする。
また、スタヴローギンの人間性が見えたところで、
小説の最初から彼の行動を追いかけて見たいと思った。
これほど「もう一度読み直したい」と強く思った小説は初めてだ。

オススメ度は・・・どうしよう。
小説前半の退屈さは後半の面白さによって完全に打ち消されるのだが、
面白くなるまでに僕は721ページほどかかったために、
正直なかなかオススメしにくい。
星は4つにしておきます。


<オススメ度>★★★★
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by komuro-1979 | 2004-12-11 04:13 | ロシアの小説

「悪霊(上)」 ドストエフスキー 新潮文庫

「悪霊」の上巻を読み終わった。
読むのに時間がかかったせいで、
前回の更新からだいぶ間が空いてしまった・・・。

あらすじは・・・ごちゃごちゃしてて紹介するのが難しい。
小説の表紙を参考にすると、
「無神論的革命思想を悪霊に見たて、それに憑かれた人々とその破滅を、実在の事件をもとに描いた」作品なのだそうだ。

物語は「私」の視点で書かれている。
序盤は主に、物語の主要登場人物の紹介ばかりで飽きてしまう。
また、「私」は序盤で起こる事件の中心人物ではないせいで、
この「私」ともども読者も、起こった事件の概要がなかなかつかめずストレスがたまる。
最初は正直退屈だった。

でも、最重要人物であるスタヴローギンが登場するあたりから、だんだんと面白くなってくる。
スタヴローギンは物腰が優雅で思慮深い青年紳士と思われていたが、
突然なんの脈略もなく、
「わしの鼻面をつかんで引きまわすなんてできることじゃない!」が口癖の老人の
鼻面をつかんでひきまわしたり、内緒話をする振りをして知事の耳に噛み付いたりするのだ。
その行動の意外性と意味不明さに面食らい、
自然とこの人物に対する興味をもってしまう。
物語が進むにつれてだんだんとこの人物の意外な性情が分かってくるのが面白い。

無神論がテーマであるみたいだけど、
正直無神論についていまいちピンとこなかった。
日常であまり考えた事のないテーマだから
自分の頭のなかに思考の道具がないのだ。
もちろん自分の頭が悪いせいもある。
シャートフとスタヴローギンの対話は迫力があって
この上巻のなかでの見せ場のひとつなんだろうなーと思ったけど、
言ってる内容を十分に理解できなかったのが残念だった。

スタヴローギンをはじめとする物語の登場人物は、
みんなどこか性格的に変わっている。
それが独特の世界観を作り出しているのだが、
この陰気で気が狂うような世界観は、合わないひとは合わないだろうと思った。
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by komuro-1979 | 2004-12-03 01:08 | ロシアの小説

「貧しき人びと」 ドストエフスキー 新潮文庫

世間から侮蔑の目で見られている小心で善良な小役人マカールと
薄幸の乙女ワーレンカの往復書簡の体裁をとった小説。
表紙には2人の恋の物語と書かれているが、
2人は歳が離れ遠い親戚関係にあり、
ワーレンカのマカールに対する気持ちは恋というよりも、
面倒を見てくれるマカールへの感謝からくる尊敬と親近感のように感じた。

今まで読んだドストエフスキーの小説の中ではダントツに読みやすかった。
それは作者の他の作品のような、
物語の流れを度外視した哲学的会話の連続がないからだと思う。
だからドストエフスキーらしさがあまり感じられなかった。

マカールは貧困のせいで人間的な誇りを傷つけられ、
精神的に追い詰められていく。
何度かその状況から脱出するきっかけを掴むが、
彼の人間的な弱さのせいでそれを逃し、さらに貧困化し精神が不安定化する。
彼が仕事上の失敗をして閣下の前に引き出されたときの
みじめな姿の描写は本当に悲惨で強く印象に残った。
貧困は人間をここまでみじめにさせるものなのだろうか・・・。

結局、マカールは閣下の施しによって貧困から救われるのだが、
一方で心の支えだったワーレンカを失ってしまうのがやりきれなかった。
ワーレンカに対するマカールの最後の手紙は
彼女に対する押さえ切れない愛情と、
心の支えを失う事への恐怖が渾然一体となった悲痛な叫びだった。

それにしても、あのどうしようもない貧困と精神的苦痛から彼を救ったのが
やっぱりお金で、それも閣下のお情けであったというのは、救われない。
ワーレンカがマカールのもとを去ってしまったのがやはり経済的な理由であり、
マカールの愛情ではワーレンカの貧困による苦しみを埋めることができなかったのも悲しい。
世の中やっぱり金・・・なのか?

・・・
オススメ度は星3つにします。
物語の終盤までは、つまらなくはないにせよ平坦で盛り上がりに欠けると感じました。
だから上に感想に書いた部分以外はほとんど印象に残っていません・・・。
また、貧困による生活の悲惨さがこの小説のメインテーマと思われますが、
その点ではゾラの「居酒屋」の方が迫力がある気がします。


<オススメ度>★★★
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by komuro-1979 | 2004-11-17 19:16 | ロシアの小説

「イワン・イリッチの死」 トルストイ 岩波文庫

104ページの薄い本。
一官吏が不治の病にかかって、肉体的・精神的苦痛を味わいながら
死と向かい合い、死ぬという話。

薄いのですぐ読み終わったが、
内容が濃くて消化し切れなかった。

彼は死の床の中で、自分の今までの人生がすべて間違っていたことを認める。
その上で、「本当のことをすることもできる」「まだ取り返しはつく」(100頁)との
思いを抱くのだが、結局それが何を意味するのかが良く分からなかった。
その文の直後に「家族を苦しめたくない」という思いが書かれているが、
それは「本当のこと」の例示の一つにすぎないと思われる。
「本当のこと」ってなんだろう?
「他人を思いやる心」?
より一般的に、「善良な心」?
う~ん・・・。
これが分からないと、彼が最後に死の恐怖を忘れ、
安らかな気持ちで死ねたことがよく理解できないのが辛い。

そもそも、彼の人生のどこが間違っていたのだろう?
まったくもって普通の人生だったと思える。
彼の人生が間違っているのなら、間違っていない人生とは一体どんなものだろう?

そこら辺が良く分からなかった。
そのうちもう一度読んでみようと思う。


<オススメ度>★★★
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by komuro-1979 | 2004-11-10 01:44 | ロシアの小説