カテゴリ:イギリスの小説( 22 )

「劇場」 サマセット・モーム 新潮文庫

(あらすじ)
その美貌と天性の才能を駆使して,イギリスで押しも押されぬ大女優となった46歳のジュリア。外見上は,美男俳優で劇場経営者である夫マイケルと理想的な夫婦を演じていたが,彼に満足できないジュリアは,劇場の経理を担当していた23歳のトムと不倫してしまう・・・。

典型的な不倫小説のようであるが,この小説の面白いところは,不倫するのがただの奥さんではなく,大女優であるところだ。

小説はジュリアの視点で描かれる。
彼女がどういう意識で舞台にのぼっているのか,そして役を演じる際に何を考えているのか,そういう,女優というものの内面がかなり詳細に描かれている。自分の知らない世界なので,読んでて非常に興味深かった。

また,トムがくだらない男であると頭では分かっていながら,しかし感情は理性を裏切り,彼に振り回されてしまうという,恋愛の不可思議な感情の動き,そしてジュリアの仕掛ける恋愛の駆け引きなどの描写もとてもうまいと感じた

あれほどトムに激しく恋をしながらも,身を滅ぼさなかったは,やはりジュリアが大女優であり,仕事に命をかけているからだろう。彼女の生活の中心はあくまで舞台であり,それが彼女の人生の一本の太い芯になっている。
従って,一見すると,トムとの恋愛が小説のメインのようでありつつも,しかし作中のなかで恋愛は彼女の仕事にかける情熱を別の角度から浮き上がらせる役割を果たすにすぎず,メインはむしろ,ジュリアの舞台にかける情熱,プロ意識のほうにあると思った。

特に小説の最後で,息子から,「あなたってものは存在しない。あなたはただあなたが演じる無数の役割の中にだけ存在するんです。いったいあなたっていう人間がいるのか,それともあなたは自分が扮する他人を容れるための器でしかないのか,と僕はよく不思議に思ったんです。」などと手厳しい言葉を言われた際の,ジュリアの独白(ネタバレになるので書きません。ぜひ読んでみてください)は大女優ならではであり,プロとはこういうものかと感心してしまった。

・・・
461頁と長い小説ですが,難しさは全くなく,すらすら読めます。
大女優の恋愛と人生というものを,ぜひ体感してみてください。


<オススメ度>★★★★
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by komuro-1979 | 2007-01-14 21:31 | イギリスの小説

「雨・赤毛」 サマセット・モーム 新潮文庫

短編集。モームの代表的な短編である「雨」と「赤毛」ほか1篇が収録されている。

「雨」は,重苦しく憂鬱な雨と宿の中の陰鬱な事件,「赤毛」は,南の島の大自然と激しい恋愛。このように,自然描写とストーリーの内容とのリンクがとても上手くいっていて,自然描写がそのまま登場人物の心情描写にもなっているような感じを受けた。だからかもしれないが,どちらも短編小説であり文章量は少ないながらも,密度が濃く感じられた。

どちらのストーリーも,最後に意外性のある結末をもって終わっており,メリハリがついている。個人的には「赤毛」の,娘の一途な恋の経過と,それに翻弄され続けた主人公のやるせなさを描いた部分が非常に面白かった。

良質な短編小説だと思う。オススメです。


<オススメ度>★★★★★
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by komuro-1979 | 2006-11-18 17:33 | イギリスの小説

「動物農場」 ジョージ・オーウェル 角川文庫

(あらすじ)
農場の動物たちが人間に対して反乱を起こし、
「すべての動物が平等な」理想社会の建設を目指す。
しかし、指導者のナポレオンをはじめとする豚たちは、
他の動物たちの知能の低さにつけこんで、権力を欲しいままに乱用し、
結果、他の動物たちの生活は前よりも一層ひどくなる。
動物たちを主人公にした寓話によって、ロシア革命を風刺した小説。

ナポレオンの、理想社会の看板を掲げた圧制に、
簡単に従ってしまう動物たちの愚かさがやるせなかった。
動物たちは知能が低く、指導者の腹のうちが全く見抜けない。
おまけに過去のことをすぐに忘れてしまうので、現在と過去との比較ができない。
そこをナポレオンにつけこまれ、見え透いた嘘や欺瞞に簡単に引っかかってしまっていた。
ああいう権力者を生み出してしまったのは、動物たちの愚かさに原因がある。

この小説は直接的にはロシア革命を風刺したものだ。
だけど、小説を読んでるときに、はるか昔の他人事という気はしなかった。
指導者の掲げる「改革」という言葉に盲目的に従ったはいいが、
改革とは名ばかりでほとんど何も変わっておらず、
強者が富む中、庶民の生活状況は悪化している
今の日本の現状を思い浮かべてしまった・・・と言うと、
思考が飛躍しすぎだと言われるだろうか?

・・・
ロシア革命云々と聞いて、難しい小説なのかなと思ってたけど、
全くそんなことはなかった。すらすら読める。そして非常に面白い。
超オススメの小説です。


<オススメ度>★★★★★
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by komuro-1979 | 2006-04-16 17:52 | イギリスの小説

「1984年」 ジョージ・オーウェル ハヤカワ文庫

(あらすじ)
1984年、世界は3つの超大国に分割されていた。
そのうちのひとつ、オセアニア国では強力な全体主義体制が確立し、
人々は思想や言語から日常生活のあらゆることまで、完全に管理されていた。
この非人間的体制に疑問を覚えた役人ウィストンは、禁止されていた日記をつけ始める・・・。

人間の尊厳などまったくない、異常な管理社会。
正常な神経をもつ人間ならば、とてもじゃないが生きていかれないはず。
しかし、この国の統治システムは、あらゆる手段を用いて、
人の思想までも徹底的に管理し、いつしか誰も体制に疑問を持たなくなってしまう
(持つ動機すら失ってしまう)。
その統治の方法論は、小説の中盤以降で明らかになるのだけれど、
そのあまりの緻密さと無慈悲さに、背筋が寒くなった。

この小説の権力構造に順応している人たちが幸せだとは、どうしても思えない。
でもそれは、今のこの現代日本社会に生きる者の価値観で評価しているからなのだろうか?
もしも、この小説のような体制の国に生まれて、それに適合するように育てられたのならば、
自由や人権や平等がない中でも、幸福に生きられるのだろうか?
・・・人間は本能として、自由や人権などを求めるものなのだろうか?
そういったことを考えさせられる小説だった。

重くて暗くて救いようがないけれど、すばらしく面白い小説。
超オススメです。


<オススメ度>★★★★★
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by komuro-1979 | 2006-04-01 23:14 | イギリスの小説

「デイヴィッド・コパフィールド(五)」 ディケンズ 新潮文庫

(以下2段落はネタバレです)

死の床に就いたドーラの、主人公に対する純真な愛情、
特に、死の間際にアグネスに対してお願いをするエピソードには心が打たれた。
ドーラのあまりの子供っぽさにうんざりし、嫌いな登場人物になっていたが、
ここはホロリとさせられた。

個性的な登場人物の多いこの小説の中で
アグネスがあまりにも完璧すぎる女性として描かれていて、
それが彼女の個性を失わせていた気がする。
そのせいなのかどうか分からないが、
主人公がいずれアグネスと再婚して幸せになるという展開になるのだろうと、
読んでて途中から予想してしまった。
あんな完璧な女性が近くにいるのに、
他の女性に心奪われるなんてことがありうるのだろうか・・・?

(ネタバレ終了)

全体の感想。
5冊と長かったけど、あっという間に読み終わってしまった。
ディケンズの小説は小難しさが全くなく、気軽に読めるのがいい。
これまで何度か書いたように、登場人物の特徴が強調されすぎているのが
ちょっと気になるけど、だんだんとそれに慣れてきて、
この小説のどことなくほんわかとした雰囲気作りに、
なくてはならないもののように思えてくる。

主人公が様々な苦難に会い、その都度、善き友人、親類などに助けられ、
そんな中で自分を磨いて成長し、苦難に打ち勝ち、幸福になるというストーリーは、
ありふれたものかもしれないが、そうであるがゆえに安心して読める。
特に良かったは、幸せに満ち溢れたラスト!
こんな風な、読み手の心まで幸せにするような終わり方をする小説を、
久しぶりに読んだ気がする。心がとても温かくなった。


<オススメ度>★★★★★
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by komuro-1979 | 2006-01-04 03:38 | イギリスの小説

「デイヴィッド・コパフィールド(四)」 ディケンズ 新潮文庫

登場人物の特徴があまりに強調されすぎているのが、相変わらず気になる。
うなぎのように体をくねくねさせまくるユライアとか、
お嬢様で現実的なことがまったく何も分からないドーラとか。
こんな奴らいないだろ~。あまりに現実離れしすぎている。

こういう描写にだいぶ慣れてきたとはいえ、やはりちょっとやりすぎだと思える。
肌に合わない人は、とことん合わないと思う。
ストーリーは面白いのだが・・・。
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by komuro-1979 | 2006-01-01 23:22 | イギリスの小説

「デイヴィッド・コパフィールド(三)」 ディケンズ 新潮文庫

いきなり話の展開が急になった。
今まで張られていた伏線が、ここで一気に爆発した感がある。

善良な人たちの、絵に描いたような温かくて幸せな家庭が、
残酷な形で崩壊するのを見るのは心苦しい。
でも、そういうほんとうに苦しいときこそ、
その人間の本質というものが浮かび上がるのだと思う。
この巻ではそれがちゃんと描かれていて、登場人物たちに深みを与えていた。

あの不平の塊だったミセス・ガミッジの変わりようといったら・・・。
心にぐっとくるものがあった。
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by komuro-1979 | 2005-12-30 14:25 | イギリスの小説

「デイヴィッド・コパフィールド(二)」 ディケンズ 新潮文庫

もうちょっと主人公の内心についての深い描写が欲しかったかな~と思う。
客観的に見て、主人公の境遇はかなり苦しいのに、
その割には彼の心の苦痛についての描写が、あっさりしすぎている気がする。
もっとも、そういう深刻な心理描写はこの小説の雰囲気に合わない気もするし、
単に好みの問題なのかもしれないが。

2巻では、いろいろと面白そうな伏線が張られた。
それがこの先どう料理されるのか楽しみだ。
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by komuro-1979 | 2005-12-27 21:23 | イギリスの小説

「デイヴィッド・コパフィールド(一)」 ディケンズ 新潮文庫

(あらすじ)
生まれる前に父を亡くすも、母と幸せな生活を送る少年コパフィールド。
しかし、母親の再婚によって、そんな幸せな生活は終わりを告げる。
その後、コパフィールドは様々な苦難に遭いつつも、周囲の人間に助けられつつ成長し、
最後に幸せを手に入れる。全五巻。

最初は、子供向けのアニメに出てきそうな、身体的・精神的特徴を強調した登場人物、
例えば、あまりに太っていて、感情が高まるとシャツのボタンがはじけ飛んでしまう女中や、
校長という権威者の腰巾着で、常に校長のそばを離れず、
校長の言うことをそのまま繰り返すスピーカーのような男などのオンパレードに、
ちょっと気が滅入った。どうも肌に合わない。

しかし、そう感じつつも、さすがはモームが世界十大小説に挙げるだけあって、
読んでいると知らず知らずのうちに物語の中に引き込まれていく。
幸と不幸との間をめまぐるしく行き来する主人公の先行きが気になって、目が離せないのだ。
挿絵も趣があってとてもいい!
今後の展開に期待を持たせる一巻だった。
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by komuro-1979 | 2005-12-25 00:32 | イギリスの小説

「女ごころ」 モーム 新潮文庫

若くて美しい未亡人である主人公メアリイと、
彼女に思いを寄せる3人の男の物語。164ページの薄い本。

面白いことは面白いのだが、
メアリイとエドガーのあまりの馬鹿さ加減が腹立たしく、読んでてイライラしてしまった。
メアリイが愚か者であることは言うまでもないが、エドガーも馬鹿でむかつく。
今のありのままのメアリイを見ようとせず、
幼いころのままの純潔で純真なメアリイという幻想を持ち続け、
それを愛するというのは、メアリイにとって失礼だと思う。
そして、メアリイの愚行が発覚したときに、
彼女に「お前みたいな女とは結婚できない」と言ってさっさと立ち去ればいいのに、
悲惨な境遇に陥る自分に酔うために結婚しようとするなんて・・・。
ただただ呆れるしかない。

この小説を読んだ女性の方はどんな感想を抱くのだろう?
それがすごく気になる。
メアリイの、あのあまりにも愚かな考え方と行動については、
弁解の余地がないという点で自分と一致すると思うけど、
細かい点でのメアリイ評がズレる気がする。
そしてやっぱり、エドガーではなく、ロウリイのような男のほうが
魅力的に映るのものだろうか・・・?


<オススメ度>★★★★
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by komuro-1979 | 2005-11-17 16:43 | イギリスの小説