カテゴリ:フランスの小説( 39 )

「人間の土地」 サン=テグジュペリ 新潮文庫

職業飛行家である作者が,実際に体験した冒険を紹介し,
その中で人間の本質というものを探求した小説。

最初に惹かれるのは文章。非常に硬質であり,男臭さを漂わせながらも,
感情描写や自然描写には繊細さがあり,詩のようでもある。
不思議であるが,素晴らしい文章。読み始めてすぐに小説の世界に引き込まれた。

この小説で紹介される冒険は,例えば,「砂漠に不時着し,喉の渇きと疲労によって生命の危機に陥るも,奇跡的に助かる」など,どれも劇的で相当興味深い。
しかしこの小説の醍醐味は冒険それ自体ではなく,そういった冒険の中,作者がどんな行動をとり,どんな風に感じたかを示すことによって,人間の本質とは何かを考えさせられるところにあると思う。

大自然の中や,危機的状況の中で見られる人間の高貴さ。
そういったものを失ってしまった都市部に暮らす人々に対し,作者は警鐘を鳴らす。
小説を読み終わったとき,大げさでもなんでもなく,これまでの自分の生き方を振り返らざるを得なかった。そういった力がこの小説にはあると感じた。

手放しで絶賛できる小説。
やや哲学チックであり,苦手意識を持つ人もいるかもしれませんが,
四の五の言わず,是非読んでみてください。
超オススメです。


<オススメ度>★★★★★
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by komuro-1979 | 2007-02-12 23:07 | フランスの小説

「幻滅(下)」 バルザック 藤原書店

リュシアンとダヴィッド、やっぱりそういう結末をたどったか・・・。

リュシアンには物書きの才能と美しい容姿があり、ダヴィッドには発明の才能があった。
しかし2人は、あまりにも世間知がなさすぎた。
そして、周囲に渦巻く妬みや陰謀に対して自分の身を守る術を、
全くといっていいほど知らなかった。
彼らが腹黒い連中に次から次へと騙されつづける様子は、
あまりに情けなく、読んでて気分は重かった。

リュシアンはもともと救いようがないのだが、ダヴィッドもいかんな。
あまりにお人よし過ぎる上に、愚鈍で、商売にちっとも向いてない。
寛大とか高潔とか性格描写されていたけど、あれじゃ単なるアホだ。
その病的にお人よしな行動から、自分だけが苦労するのならいいけど、
妻や母親も運命を一緒にしているのだから、責任は思い。
とても腹が立ってしまった。

一方、コワンテ兄弟やプティ=クロ、そしておいぼれ熊は、
すごい陰険で嫌なやつのように思えるけど(いや、実際そうなのだけれど)、
彼らは法律を犯しているわけでなく、その行動はあくまで商売上のかけひきの範囲内だ。
彼らがダヴィッドを騙す手際はあまりに見事であり、すがすがしささえ感じた。

リュシンアン、ダヴィッドの失敗に歯がゆかったので、
最後の怪しげな神父の人生訓(悪のすすめ)が、かなり魅力的に思えてしまった。
あれに従っていれば、2人は大成功を治めていただろうに。
やっぱり陰謀渦巻く世界で成り上がるには、ある程度非情にならないといけないのかも。

・・・
全体の感想。
この小説ですばらしいのは、
出版業界、貴族社会、商売の世界の
裏の事情を余すところなく精密に描いた所だと思った。
こういった世界で生きる人たちの物事の考え方や、
日々繰り広げられる駆け引きは非常に面白く、作者の力量すばらしさを感じた。

問題は、本の値段があまりに高いこと。
上下2冊で6500円ぐらいする。
普段、文庫本ばかり買っている者にとって、買のにかなり躊躇する値段だ。
もう少し安ければ助かるのだが。


<オススメ度>★★★★
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by komuro-1979 | 2006-03-15 01:54 | フランスの小説

「幻滅(上)」 バルザック 藤原書店 

(あらすじ)
田舎で貧しい暮らしをしつつも、才気に溢れ、青年らしい野心をもった詩人リュシアン。
ある日彼が田舎の貴族夫人に気に入られてから、その運命は一変する。
上巻では、田舎からパリに出てきたリュシアンが、出版業界に入り、出世するまでの
経緯が描かれる。

最初、ダヴィッドの話が延々と続くので
主人公はダヴィッドなのだと思って読んでいたら、なんとただの脇役だった。
最初からあれほどのページを割く必要がない気がするが・・・。
もしかしたら下巻で活躍するのだろうか?

リュシアンは「セナークル」の善良で高潔だが貧しい人々から離れ、
欲望と陰謀渦巻く出版業界に入り、そこであっという間に出世する。
社会的地位と経済力が上がり、今まで鼻にもかけてもらえず侮辱さえ受けた
貴族や有力者たちに対して復讐をはじめる。
その様子は爽快だけど、「セナークル」の偉人たちに感化されるリュシアンの様子を
もっと見ていたかったので、ちょっと残念な気もする。
また、リュシアンのあの出世欲と向こう見ずさはかなり危なっかしく感じる。
いつか誰かに策略にはまってあっさり没落しないかと、ハラハラしてしまった。

リュシアンの出世物語を通じて、
当時、ジャーナリストというものが社会にどれほど大きな影響力をもっていたか、
また、記事というものがどういう社会的権力関係の中で作られるのか、
そういう出版業界の裏事情が垣間見れてとても面白かった。
現代の出版業界はどうなのだろう・・・?
やっぱり本質はこの頃と変わらないのだろうか?
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by komuro-1979 | 2006-03-11 01:08 | フランスの小説

「ジャン・クリストフ(四)」 ロマン・ローラン 岩波文庫 

それにしても、クリストフに関った人物が
次から次へと死んでいくのはどうしたことだろう?(笑)
親しい者の死によってクリストフに試練を与えるという
ストーリー上の必要があるのかもしれないけど、
いくらなんでも、ちょっと死にすぎな気がする。

クリストフとアンナとの恋愛のシーンはすごい迫力だった。
こんな恋愛があるのだろうか?
心の表層的な部分ではなく、魂がいやおうなく相手にひきつけられ、
一度ひっついたら決して離れられないような恋愛。魂の結合。
すごいなぁ・・・。
このシーンの、情熱と理性、生と死の戦いに関する描写は
人間の本質というものを描きだしていて、ただただすばらしかった。

ただ、他のシーンでは、やや退屈する箇所が多かった。
その原因はまず、ストーリーの進展の遅さと単調さにあると思った。
もちろん、アントワネットやアンナとのエピソードをはじめ、
心を打つエピソードはたくさんあったのだけれど、全体の分量からすると少ない。
そういうエピソードよりはむしろ、比較的平坦な生活のなかでの
主人公の内心の葛藤やパリの当時の思想・文化状況に多大なページが割かれている。
深い心理描写は好きなのだけれど、ちょっとくどすぎる感じがして好きになれなかったし、
パリの思想状況等については関心がなかったので、退屈に感じられた。

ラストにかけては、改めて、クリストフという人間の強い精神力と、
人に対する(楽天的とも言える)信頼の強さに感動した。
そして、一人の人間が一生かけてできることというのは
とてもちっぽけではあるけど、それでも彼が生きた証はちゃんと
後世に残り、それは形を変えることがあっても、
人類の歴史の流れの中で脈々と受け継がれて行くという、
壮大な思想が感じられた。
死ぬことはそんなに悲観することではないのではないか、と、
読んだ後に思えてしまったぐらいだ。

全体の感想。
正直言うと、客観描写と心理描写が詳細かつ長すぎてしんどかった。
どんなにそれらが優れたものであっても、
あらゆる事柄について精密に長々と描写されると、読んでて疲れてしまう。
その結果、本来は盛り上がるシーンにさしかかっても、
疲れと飽きによって感動が減ぜられてしまった感がある。
もうちょっとメリハリをつけた描写が欲しかった気がする。

とはいえ、個々の描写が優れていることは間違いない。
いろいろ含蓄ある言葉や考え方がちりばめられていて、
読んでる途中本を閉じて有益な夢想に耽ることがたびたびあった。
読んでためになる小説であることは間違いないと思う。

オススメ度は・・・。
読むのに必要な莫大な時間と精神力に対し、
読むことによって得られたものを比較すると、
少し割りに合わない気がした。
なので、オススメ度は★3つにしておきます。


<オススメ度>★★★
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by komuro-1979 | 2006-02-27 18:07 | フランスの小説

「ジャン・クリストフ(三)」 ロマン・ローラン 岩波文庫 

金持ちの家に生まれ、天真爛漫に育ったアントアネットが、
突然の不幸によって家が没落し、両親を失い、不幸と貧困のどん底に突き落とされながらも
絶望せず、身を粉にして働き、愛する弟を助ける様子には心が打たれた。
なんて強い人だろう。そしてなんて献身的ですばらしい愛だろうか。

次に、クリストフの人生観の底にある、人間愛はすごいと思った。
世間から排斥され、様々な困難に遭い、人間の醜さを嫌というほど味わっているのに、
それでも世を嘆かず人を愛し続ける。
少し理想主義的な感じもするけど、厳しい現実の中でも
自分の価値観をずっと守り続ける姿は尊敬に値すると思う。

この巻ではクリストフの価値観・人生観を表している
次のやりとりが印象に残った。

「ほんとに世の中は悲しいものですわね!」とアルノー夫人はややあって言った。
クリストフは顔をあげた。
「いいえ、人生が悲しいのではありません。」と彼は言った。「悲しい時があるのです。」
アルノー夫人は悲痛さを押し隠して言った。
「以前は愛し合ったのに、もう愛し合わなくなる。それが何かのためになりましょうか。」
「愛し合っただけでいいんです」(476頁)
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by komuro-1979 | 2006-02-25 03:23 | フランスの小説

「ジャン・クリストフ(二)」 ロマン・ローラン 岩波文庫 

クリストフは、世間一般の人がなんとなく想像する芸術家像、
すなわち、気難しくて非社交的で感情的で、いわゆる変人っぽいという特徴を持っている。
そしてやっぱり世間に理解されない。
彼が、自分の音楽上の信念を貫くために世間と対立し、
ひたすら攻撃され、苦悶する様子は壮絶だ。
人を愛し愛されたいという心を持っているからこそ、
人から排斥される苦痛が大きいのだと言える。
ま~それにしても、世間渡りがあまりに下手すぎるなぁ・・・。

クリストフは、誰も味方のいない孤独な闘いの中、自分の信念を貫けるのか。
彼を理解し愛する人々が登場するのだろうか。
そう思いつつ読んでいたら、最後のほうでオリヴィエが登場。
彼とクリストフとの関係がこの先、気になるところだ。
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by komuro-1979 | 2006-02-22 02:47 | フランスの小説

「ジャン・クリストフ(一)」 ロマン・ローラン 岩波文庫 

(あらすじ)
音楽家の家系に生まれ、幼い頃から音楽家としての才能を開花させたクリストフ。
自分にあまりに正直で、世渡りの下手なクリストフは、世間から様々な苦難を与えられるも、
それでも人を愛し続ける。傷つきつつも戦いをやめない彼の成長の物語。全四巻。

クリストフの幼年期から順をたどって
彼の成長を追っていくストーリーと、精密詳細な心理描写は
自分好みであるが、しかし、ストーリの進み具合に対して
心理描写の量が多く、さすがに読んでて疲れてしまう。
本も厚く、一冊読むのに一苦労。
これをあと3冊か。かなり気合を入れないと・・・。

一巻では、ローザのその報われない心の悲しさが印象に残った。
善良で純粋な心を持ち、あれだけクリストフに尽くしているのに、
顔が悪くておしゃべりという理由であの扱い。
現実なんてそんなものだよなぁ~と思いつつも、ちょっと可哀想だった。
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by komuro-1979 | 2006-02-17 18:51 | フランスの小説

「ボヴァリー夫人」 フローベール 新潮文庫

(あらすじ)
田舎の医者であるボヴァリーの妻エマは、夫の凡庸さに飽きてしまったために、
情熱的な恋愛を空想しては不倫と借金を重ね、不幸になるという話。

作者の自然描写(客観描写)の鋭さは驚異的だと思う。
情感溢れたやわらかな描写ではなく、機械的正確さをもった描写。
文を読み、目を閉じると、その情景がありありと浮かんでくるようだ。

この描写技術には感心したのだけれど、ストーリーのほうはたいして面白くない。
当時のフランスでは、この小説が風俗を乱すとして問題になったらしいけど、
今の現代社会では、きわどい描写もなにもない単なる不倫小説だ。
先の展開が読めてしまう上に、不倫以外にたいした事件が起こらない。
そのわりには話が長すぎるので、読んでてだれてしまった。

客観的には人並み以上の幸せを手に入れているのに、
もっと自分は幸せになれると誤信し、夢ばかりを追いかけるエマ。
このような女性はどこにでもいるだろうし、
自分の中に、エマのような考え方がないとは言えない。
だからこそ、エマを単純に愚か者だと言って笑えなかった。

エマはどうすれば幸せになれたのだろうか?
どんな人と結婚しても、彼女の根本の考え方を変えない限り、
必ず相手に飽きて、不幸に陥る気がする。
今自分の置かれている、自力では変えられない現状に適応するようにし、
そんな生活から幸せを見つける努力をしていくことぐらいしかないのだろうか。


<オススメ度>★★★
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by komuro-1979 | 2006-02-07 03:10 | フランスの小説

「レ・ミゼラブル(五)」 ユゴー 新潮文庫

やっぱりヴァルジャンとジャベール。
この2人が登場しないと面白くない。
ジャベールはこれまでは冷徹無比でただただ嫌なやつだったけれど、
この巻ですっかり印象が変わってしまった。
彼は職務を行うときに、法を厳格に守り執行すること以外、
何も考えないようにすることによって、いわば思考停止の状態に自分を置き、
法を超えた真実・正義というものから目を背けて自分の心を守っている、
弱い人間だったのかもしれない。

それにしても、ヴァルジャンが憐れでならなかった。
若い頃、生きるためにたった一つのパンを盗んだだけで、
人生の楽しみを根こそぎ奪われ、
中年になってようやく手に入れた幸福もまた手放さねばならない。
こんな悲しい話があるだろうか。
自分の家からコゼットの住む家に向かって出かけては途中で引き返すその姿は、
あまりに憐れで涙を誘った。

全体の感想。
非常に面白かった。間違いなく名作だと思う。
何がそう感じさせるのか考えると、ストーリーそれ自体の面白さは言うまでもないが、
心理描写のうまさ(特に内心の葛藤の描写)にあると個人的に思った。
例えば、一巻に出てくる司祭や改心したあとのヴァルジャンは、
どちらも聖人として登場するが、完全な聖人として描かれているのではなく、
内心では嫉妬や欲望などから逃れられずに苦悶する、
その様子が克明に描かれていることが、人物に対する深みを増し、
ひいては小説の中で繰り広げられる人間ドラマをより味わい深いものにしていると感じた。

ストーリーにちょっとご都合主義だと感じる部分があったり、
余談があまりに長かったりするけれど、
それを補って余りある面白さ。超オススメです。

<オススメ度>★★★★★
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by komuro-1979 | 2005-12-10 23:05 | フランスの小説

「レ・ミゼラブル(四)」 ユゴー 新潮文庫

この巻ではマリユスがかなり重要な役割を果たすのだけれど、
彼という人物がどうも好きになれなかったせいで、
前半のマリユスとコゼットの恋愛の部分は、あまり感情移入できなかった。

なんでマリユスが好きになれないのだろう?
たぶん、経済的にも思想的にも地に足がついてないし、
また、恋愛に関して自分勝手に思えたのだと思う。
だいたい、自分の恋が思い通りにいかないからって、
自分の死をちらつかせて相手を脅迫するのはちょっとなぁ・・・。
コゼットにはどうしようもないではないか。

また、エポニーヌに対してやたら冷たいのもマイナスだ。
恋愛の盲目状態のときは周囲には目はいかないものだから
それほど責められないのかもしれないが、
エポニーヌのけなげさとその悲しい結末と、マリユスの向こう見ずで強引な恋とを
どうしても対比してしまい、彼の恋の自分勝手さが目だって浮き上がってしまった。
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by komuro-1979 | 2005-12-07 13:57 | フランスの小説