「劇場」 サマセット・モーム 新潮文庫

(あらすじ)
その美貌と天性の才能を駆使して,イギリスで押しも押されぬ大女優となった46歳のジュリア。外見上は,美男俳優で劇場経営者である夫マイケルと理想的な夫婦を演じていたが,彼に満足できないジュリアは,劇場の経理を担当していた23歳のトムと不倫してしまう・・・。

典型的な不倫小説のようであるが,この小説の面白いところは,不倫するのがただの奥さんではなく,大女優であるところだ。

小説はジュリアの視点で描かれる。
彼女がどういう意識で舞台にのぼっているのか,そして役を演じる際に何を考えているのか,そういう,女優というものの内面がかなり詳細に描かれている。自分の知らない世界なので,読んでて非常に興味深かった。

また,トムがくだらない男であると頭では分かっていながら,しかし感情は理性を裏切り,彼に振り回されてしまうという,恋愛の不可思議な感情の動き,そしてジュリアの仕掛ける恋愛の駆け引きなどの描写もとてもうまいと感じた

あれほどトムに激しく恋をしながらも,身を滅ぼさなかったは,やはりジュリアが大女優であり,仕事に命をかけているからだろう。彼女の生活の中心はあくまで舞台であり,それが彼女の人生の一本の太い芯になっている。
従って,一見すると,トムとの恋愛が小説のメインのようでありつつも,しかし作中のなかで恋愛は彼女の仕事にかける情熱を別の角度から浮き上がらせる役割を果たすにすぎず,メインはむしろ,ジュリアの舞台にかける情熱,プロ意識のほうにあると思った。

特に小説の最後で,息子から,「あなたってものは存在しない。あなたはただあなたが演じる無数の役割の中にだけ存在するんです。いったいあなたっていう人間がいるのか,それともあなたは自分が扮する他人を容れるための器でしかないのか,と僕はよく不思議に思ったんです。」などと手厳しい言葉を言われた際の,ジュリアの独白(ネタバレになるので書きません。ぜひ読んでみてください)は大女優ならではであり,プロとはこういうものかと感心してしまった。

・・・
461頁と長い小説ですが,難しさは全くなく,すらすら読めます。
大女優の恋愛と人生というものを,ぜひ体感してみてください。


<オススメ度>★★★★
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by komuro-1979 | 2007-01-14 21:31 | イギリスの小説
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