アメリカのカンザス州で起きた一家4人惨殺事件を基にしたノンフィクションノベル。
小説はまず,殺害されたクラッター一家の構成員の紹介から始まり,事件を経て,一家と付き合いのあった人たちの証言,地域の人々の不安感などを描写し,中盤に差し掛かってようやく犯人であるペリーとディックに焦点が移る。 そして彼らの事件後の行動を描写しつつ,その生い立ちなどを紹介した上で,逮捕され,裁判にかけられ,死刑が執行されるまで,彼らの言動を追い続けて小説は終わる。 序盤,クラッター一家の人たちについての描写が少ないように感じられた上,その描写も,妻が病気を持っていること以外は,絵に描いたような幸せな一家としか描かれておらず,個々の家族に対して感情移入できなかった。 そのせいで事件の衝撃と悲惨さが,自分の中で減じられてしまったような気がした。 また,上述の一家と付き合いのあった人たち証言は,クラッター一家の素晴らしさと事件に対する怒りや不安を述べるばかりで,ただただ退屈であった。 しかし,ペリーとディックに焦点が移る中盤以降,急速に小説に惹きつけられた。 この様な事件を起こす人間は,一体どんなことを考え,またどのような人生を送ってきたのだろうという興味によって, 自然とページを繰る手が早くなってしまう。 特に知りたかったのは,犯行の動機。 なぜ2人はこのような残虐な事件を起こさなければならなかったのか,その理由を探ろうと読み進めるのだが,ペリーとディックの事件についての供述をいくら読んでみても,明確な,そして納得できる答えというものは出てこない。 ただ,途中,精神科医の書いた論文が紹介されており,その中で今回の犯行の動機について,一つの答えとなりうるようなものが示されていた。もちろんこれは一つの意見にすぎず,現実は全く違う動機なのかもしれないが,もし仮に動機がこの通りであるとすると,殺人を犯す動機なんてものは,こんな不明確なもので,ちっぽけなもの(という表現は適切ではないのかもしれないが)なのかもしれないと,ある種の諦め感じつつ受け入れる自分がいる一方で,こんな理由で4人も惨殺してしまう人間の心の恐ろしさと,やるせない怒りを感じる自分もいた。 この小説は,現実に起こった事件を扱っていることから,他の普通のフィクションの小説とは,リアリティが全然違う。淡々と事件の経緯を追っていくその描写に迫力を感じた。 長い小説ではあるけど,一読の価値はあります。 ぜひ読んでみてください。 <オススメ度>★★★★
by komuro-1979
| 2006-12-17 19:48
| アメリカの小説
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