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「午後の曳航」 三島由紀夫 新潮文庫

(あらすじ)
早くに父を失くし、母親と二人暮らしをする13歳の少年、登。
憧れの存在であった船乗りの竜二が、登の母親と結婚しようと、
海を捨てて陸での暮らしを選ぼうとすることを知り、憤然とする。
竜二が、平凡な男になるのが許せなかったのだ。
登は仲間とともに、竜二を処刑しようとする・・・。

少年たちの、無邪気さの仮面に隠れた、危険すぎる自尊心と、獣性。
それらが、竜二と登の母のほのぼのとした幸せな恋愛との対象によって一層際立ち、
とても恐ろしく感じられた。

しかし、少年たちはその年齢(13歳ぐらい)に比して
知能があまりに発達しすぎていて、リアリティは感じられなかった。
だから、子供たちの、大人たちに対する批判は、
作者本人の言葉(批判)そのものとして感じられてしまい、
論説文を読んでいるような感覚をうけたのが、
小説としてはよくなかった気がする。

ラストは、その後に行われるであろう残虐行為の予感に
ビクつきながら読むところなのだろうけど、
恐怖感は全くなく、なんだかすべてが夢の中のできごとのような、
不思議な余韻の残る終わり方だった。
失われた栄光を懐かしみ、胸の奥に痛みを感じる、
そんな竜二の心がダイレクトに伝わってきて、
こちらも胸が痛くなった。


<オススメ度>★★★★
by komuro-1979 | 2006-05-06 18:01 | 日本の小説
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