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「ムーンパレス」 ポール・オースター 新潮文庫

(あらすじ)
父を知らず、幼い頃に母と死別した主人公は、伯父によって育てられる。
大学生のときに、大好きだったその伯父をも失くした主人公は、
絶望のあまり自暴自棄になって餓死寸前になるが、キティら友人によって救われる。
その後、彼は奇妙な仕事を見つけ、その仕事をこなしていくうちに、
自分の家系の謎にたどりつく・・・。

途中まではすごく面白かった。
伯父から送られた本をめぐるエピソードは、とても味わいがあってよかったし、
なによりエフィングとの共同生活のシーンは最高だった。
気難しい、変人気質の老人との共同生活というネタでつまらないわけがない。
彼は確かに変人であるが、内に隠れた知性と厚い情を秘めていた。
この小説の中で、もっとも魅力的な登場人物だった。

この共同生活の終わり以降、小説の面白さは自分の中で下降線をたどった。
その原因としては、まず、偶然に偶然がかさなる展開に、白けてしまったことが挙げられる。
「偶然」がひとつのテーマなのだろうが、やりすぎに感じた。
主人公はたいしたことは何もしてないのに、次から次へと莫大なお金が舞い込むうえ、
長年の家系の謎が勝手に解けていく。ついていけなかった。

次に、主人公とキティの恋愛に感情移入できなかったことが挙げられる。
キティという人物についての描写が少なすぎて、彼女の人間像をうまく作れなかった。
だから、そもそもなぜキティが主人公を好きになったのかがさっぱりわからず、
恋愛の出だしから感情移入できなかった。
恋愛の結末も、主人公の身勝手さばかりが目だってしまい、どうにも後味が悪い。
キティとの恋愛は小説後半の山場のなのに、さっぱり感情移入できず、
印象に残らなかった。

しかしなにより一番の原因は、やはり、主人公を嫌いになってしまったことだと思う。
彼は、何事も行き当たりばったりで現実感覚のない単なる甘ったれだと思えてしまった。
最初の餓死寸前になるエピソードのあたりから、主人公の情けない性格が鼻について、
少しイライラしていたのだが、最後のキティに対する仕打ちに至って、
主人公嫌いが決定的になった。これが小説全体の印象を決定的に悪くした。
主人公の成長を描く青春小説なのに、主人公に共感できなかったらどうしようもない。

・・・というわけで、なんだか不満ばかりになってしまった。
でもそれは、途中まで面白くて、期待しすぎたことの裏返しだと思う。


<オススメ度>★★★
by komuro-1979 | 2006-04-09 19:33 | アメリカの小説
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