やっぱりヴァルジャンとジャベール。
この2人が登場しないと面白くない。 ジャベールはこれまでは冷徹無比でただただ嫌なやつだったけれど、 この巻ですっかり印象が変わってしまった。 彼は職務を行うときに、法を厳格に守り執行すること以外、 何も考えないようにすることによって、いわば思考停止の状態に自分を置き、 法を超えた真実・正義というものから目を背けて自分の心を守っている、 弱い人間だったのかもしれない。 それにしても、ヴァルジャンが憐れでならなかった。 若い頃、生きるためにたった一つのパンを盗んだだけで、 人生の楽しみを根こそぎ奪われ、 中年になってようやく手に入れた幸福もまた手放さねばならない。 こんな悲しい話があるだろうか。 自分の家からコゼットの住む家に向かって出かけては途中で引き返すその姿は、 あまりに憐れで涙を誘った。 全体の感想。 非常に面白かった。間違いなく名作だと思う。 何がそう感じさせるのか考えると、ストーリーそれ自体の面白さは言うまでもないが、 心理描写のうまさ(特に内心の葛藤の描写)にあると個人的に思った。 例えば、一巻に出てくる司祭や改心したあとのヴァルジャンは、 どちらも聖人として登場するが、完全な聖人として描かれているのではなく、 内心では嫉妬や欲望などから逃れられずに苦悶する、 その様子が克明に描かれていることが、人物に対する深みを増し、 ひいては小説の中で繰り広げられる人間ドラマをより味わい深いものにしていると感じた。 ストーリーにちょっとご都合主義だと感じる部分があったり、 余談があまりに長かったりするけれど、 それを補って余りある面白さ。超オススメです。 <オススメ度>★★★★★
by komuro-1979
| 2005-12-10 23:05
| フランスの小説
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