「幽霊たち」 ポール・オースター 新潮文庫

長編小説を読んで疲れたから短編小説。
というわけで、ポール・オースターの「幽霊たち」を読んだ。
122ページの短い物語だ。

(あらすじ)
私立探偵のブルーが、依頼人からブラックを秘密裏に見張るように頼まれ、
ブルーはブラックの住む建物の真向かいにある建物に移り住み、そこから彼を見張り始める。
ところがブラックは部屋に篭り、ひたすら何かを読んで書くだけの単調すぎる日々を送るだけ。
ブルーは次第に孤独や不安に悩まされ、依頼者への不信感を抱き、
ついにはブラックに接触してみようと試みる・・・。

ブラックが全く動きを見せず、事件らしい事件は何も起こらないので、
ブルーの思考は次第に自分の内面へと向かう。
ブルーの感じる孤独や不安、ブラックに対する親近感と疎外感、
そして停滞している現状に対する疲労と焦燥感を、
作者は切れ味鋭い言葉で描きだしている。
物語の大半はブルーの心理描写であるにもかかわらず、
読んでいて全く飽きが来ないのが不思議だ。
作中に様々なエピソードが挿入されたり、
日常のなんでもない現象を、作者がブルーの目を通じて
新たな視点から捉えなおす記述がたくさんあるのだが、
それらにとてもセンスを感じる。
思わずメモをとりたくなってしまうようなフレーズがたくさんあった。

この作品で特徴的なのは、主要登場人物の名前が色の名前になっていること。
これはとても新鮮だった。
名前を色に変えるだけで、これほど人の存在感が消えるとは思わなかった。
自分を見失い存在が希薄化していくブルーと、もともと存在が希薄なブラック。
自分の存在を確かめるために苦闘した2人の物語とその結末に、どこか寂しさを感じた。

短いけれど中身が詰まったセンスの良い小説。
オススメです。

<オススメ度>★★★★
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by komuro-1979 | 2004-12-13 01:38 | アメリカの小説
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