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職業飛行家である作者が,実際に体験した冒険を紹介し,
その中で人間の本質というものを探求した小説。 最初に惹かれるのは文章。非常に硬質であり,男臭さを漂わせながらも, 感情描写や自然描写には繊細さがあり,詩のようでもある。 不思議であるが,素晴らしい文章。読み始めてすぐに小説の世界に引き込まれた。 この小説で紹介される冒険は,例えば,「砂漠に不時着し,喉の渇きと疲労によって生命の危機に陥るも,奇跡的に助かる」など,どれも劇的で相当興味深い。 しかしこの小説の醍醐味は冒険それ自体ではなく,そういった冒険の中,作者がどんな行動をとり,どんな風に感じたかを示すことによって,人間の本質とは何かを考えさせられるところにあると思う。 大自然の中や,危機的状況の中で見られる人間の高貴さ。 そういったものを失ってしまった都市部に暮らす人々に対し,作者は警鐘を鳴らす。 小説を読み終わったとき,大げさでもなんでもなく,これまでの自分の生き方を振り返らざるを得なかった。そういった力がこの小説にはあると感じた。 手放しで絶賛できる小説。 やや哲学チックであり,苦手意識を持つ人もいるかもしれませんが, 四の五の言わず,是非読んでみてください。 超オススメです。 <オススメ度>★★★★★
猟奇的な事件が起こると,ニュース上では精神鑑定という文字が躍ることが多く,
以前より,精神鑑定そのものに興味を持っていたし,精神鑑定の対象者は どんな人なのだろうという興味もあったことから,なんとなくこの本を手に取った。 気軽に手に取ったはいいが,精神鑑定の流れや病気について, 予想以上に丁寧に説明がなされており,新書ながら情報量は多い。 精神鑑定について詳しく知ることができる一方,読むのに骨が折れ, 特に第1章は,法律に興味がないと読むのは辛いかもしれないと感じた。 この本のメインは第3章。 著者は精神科医として20年以上のキャリアを持ち,精神鑑定を多数経験しているのだが, その著者が実際に行った精神鑑定が10例ほど紹介されているのだ。 対象者の精神状態や言動に対し,どんな診断が下されるか, 鑑定人として法廷に立ち,証人尋問を受けるのはどういった気持ちなのか,など, 好奇心をそそられるところがたくさんあり,読んでて素直に面白い。 筆者は,精神鑑定の重要性を説きつつも,同時にその限界を示したうえ, 今後の精神鑑定はどうあるべきか,などといったところまで踏み込んだ記述がなされており, その誠実な態度に好感を持てた。 興味がある人は是非手にとってみて下さい。
(あらすじ)
その美貌と天性の才能を駆使して,イギリスで押しも押されぬ大女優となった46歳のジュリア。外見上は,美男俳優で劇場経営者である夫マイケルと理想的な夫婦を演じていたが,彼に満足できないジュリアは,劇場の経理を担当していた23歳のトムと不倫してしまう・・・。 典型的な不倫小説のようであるが,この小説の面白いところは,不倫するのがただの奥さんではなく,大女優であるところだ。 小説はジュリアの視点で描かれる。 彼女がどういう意識で舞台にのぼっているのか,そして役を演じる際に何を考えているのか,そういう,女優というものの内面がかなり詳細に描かれている。自分の知らない世界なので,読んでて非常に興味深かった。 また,トムがくだらない男であると頭では分かっていながら,しかし感情は理性を裏切り,彼に振り回されてしまうという,恋愛の不可思議な感情の動き,そしてジュリアの仕掛ける恋愛の駆け引きなどの描写もとてもうまいと感じた あれほどトムに激しく恋をしながらも,身を滅ぼさなかったは,やはりジュリアが大女優であり,仕事に命をかけているからだろう。彼女の生活の中心はあくまで舞台であり,それが彼女の人生の一本の太い芯になっている。 従って,一見すると,トムとの恋愛が小説のメインのようでありつつも,しかし作中のなかで恋愛は彼女の仕事にかける情熱を別の角度から浮き上がらせる役割を果たすにすぎず,メインはむしろ,ジュリアの舞台にかける情熱,プロ意識のほうにあると思った。 特に小説の最後で,息子から,「あなたってものは存在しない。あなたはただあなたが演じる無数の役割の中にだけ存在するんです。いったいあなたっていう人間がいるのか,それともあなたは自分が扮する他人を容れるための器でしかないのか,と僕はよく不思議に思ったんです。」などと手厳しい言葉を言われた際の,ジュリアの独白(ネタバレになるので書きません。ぜひ読んでみてください)は大女優ならではであり,プロとはこういうものかと感心してしまった。 ・・・ 461頁と長い小説ですが,難しさは全くなく,すらすら読めます。 大女優の恋愛と人生というものを,ぜひ体感してみてください。 <オススメ度>★★★★
明けましておめでとうございます。
新年一発目として,正月の暇な時間に読んだ本のレビューを2つほど書かせて頂きました。 最近は,海外文学に限らず,日本の文学や流行の小説を段々と読むようになりました。 このブログを始めたときは,とにかく「文学」というものに対する苦手意識を解消しようとして,夢中で手当たり次第に有名な文学小説を読み漁るだけに終わり,読んだ内容を自分のなかで消化する余裕があまりなかった気がします。 しかし,そんな苦手意識がだいぶ解消し,読書熱が適度なレベルに治まった今,ようやく自分の真に読みたい本を,自分のペースで読めるようになってきた感があります。 色々な本を読んで,人間的に成長していきたいと思うので,何かオススメの本があれば,是非紹介してください。 というわけで,更新の遅い弱小ブログですが,今年もどうぞ宜しくお願いします。
(あらすじ)
主人公ゴリャートキンは小心で引っこみ思案,そして才能も家柄もない典型的小役人。自分の性格や今自分の置かれている現状に比し,出世して人生の成功者になりたいという欲望はあまりに大きく,そのギャップに苦しんで精神的に病んでしまった結果,もう一人の自分という幻覚を作り出してしまう・・・。 もう一人の自分(新ゴリャートキン)は,快活で人当たりがよく,ゴマすりもうまい。本当の自分とは正反対であり,こうありたいと常々思っている自己の姿をまさに体現している。そんな新ゴリャートキンに,役所での自分の地位を次々と奪われて嫉妬し,段々と精神的に病んでいく過程が描かれているのだが,結論的に読んでてやや退屈という印象を受けた。 ゴリャートキンが新ゴリャートキンを憎み,復讐をしてやろうと思いつつも,いざ彼を前にすると,その小心さからか怖気づき,自分が悪かったと謝ったうえで相手の機嫌までとり始める。そういったゴリャートキンの人物像や,簡単には割り切れない人間の微妙な心理,理想と現実に苦しむ様子などを,非常に上手く描いている。 しかし,ストーリーが同じパターンの繰り返し(新ゴリャートキンが旧ゴリャートキンに嫌がらせ→新ゴリャートキンが出世→嫉妬,憎しみ→出世を妨げようと働きかける→失敗→新ゴリャートキンに許しを請う)であるうえ,個々のパターンにおけるゴリャートキンの内心の葛藤の描写があまりに長く,326ページ読み終えるまでやたら長く感じる。半分ぐらいの分量にすればすっきりまとまるのに・・・と思ってしまった。 <オススメ度>★★★
表題の小説ほか,3篇の短編小説を収録。
「ティファニーで朝食を」は,ホリーのその謎めいた生い立ちと,予測不能な行動,そして彼女に振り回される男たちの描写などを通じて,ホリーという女性の魅力が充分に表現されていた。特に,飼い猫を巡ってホリーが感傷的になるエピソードは,読んでてホロリとさせられると共に,普段は自由気ままで気の強いホリーの別の一面を見せつけられ,彼女により感情移入するきっかけとなった。 ただ,ストーリーは結局,ホリーの自由気ままな暮らしを主人公の視点から追うだけであり,これではいくらホリーが魅力的と言っても飽きてしまう。正直それほど面白い小説とは思わなかった。 この小説よりもむしろ,「ダイヤのギター」のほうが断然面白かった。 「ダイヤのギター」は,殺人罪で99年の刑を言い渡された,ある受刑者の話。 娑婆に出ることを諦め,刑務所内で平穏な暮らしをしていたところ,新しく入所してきた男が脱走を持ちかけてきたことがきっかけで,彼の心はすっかり乱れてしまう。 一度は捨てたが,なお捨てきれない「自由」というものへの憧れが,ダイヤのギターを通じて見事に表現されており,読後感は素晴らしかった。 <オススメ度>「ダイヤのギター」★★★★★ 他★★★
小咄の構造を分析し,12種類に分けた上,各構造ごとに章立てし,
それぞれの章ではその構造に沿った小咄の例を豊富に紹介しながら説明している。 また,各章の最後には練習問題がついている。 小咄がきちんとした構造を持っていることは驚きであった。 この本に書かれていることを意識しながら,小咄を作る訓練?をしていけば, いずれは笑いのとれる小咄を自分で作ることができそうな気がしないでもない。 例として紹介されている小咄はどれも面白く,読んでいて単純に面白い。 しかし,この本には,どうしても気に入らない点がある。 それは,著者が突然,小泉元総理の靖国神社参拝やその他諸々の政治的言動を採りあげて,批判を始めることだ。それもかなり高いテンションで。一応,話の流れに沿うように,小泉元総理の発言を小咄風にして紹介するのだが,小咄としては全く面白くない。その上,著者の元総理批判は見方が偏りすぎていて稚拙であり,その点でも救いようがなく,読んでて冷めるばかりだ。 その点を除けば,良書であると思う。 <オススメ度>★★★
アメリカのカンザス州で起きた一家4人惨殺事件を基にしたノンフィクションノベル。
小説はまず,殺害されたクラッター一家の構成員の紹介から始まり,事件を経て,一家と付き合いのあった人たちの証言,地域の人々の不安感などを描写し,中盤に差し掛かってようやく犯人であるペリーとディックに焦点が移る。 そして彼らの事件後の行動を描写しつつ,その生い立ちなどを紹介した上で,逮捕され,裁判にかけられ,死刑が執行されるまで,彼らの言動を追い続けて小説は終わる。 序盤,クラッター一家の人たちについての描写が少ないように感じられた上,その描写も,妻が病気を持っていること以外は,絵に描いたような幸せな一家としか描かれておらず,個々の家族に対して感情移入できなかった。 そのせいで事件の衝撃と悲惨さが,自分の中で減じられてしまったような気がした。 また,上述の一家と付き合いのあった人たち証言は,クラッター一家の素晴らしさと事件に対する怒りや不安を述べるばかりで,ただただ退屈であった。 しかし,ペリーとディックに焦点が移る中盤以降,急速に小説に惹きつけられた。 この様な事件を起こす人間は,一体どんなことを考え,またどのような人生を送ってきたのだろうという興味によって, 自然とページを繰る手が早くなってしまう。 特に知りたかったのは,犯行の動機。 なぜ2人はこのような残虐な事件を起こさなければならなかったのか,その理由を探ろうと読み進めるのだが,ペリーとディックの事件についての供述をいくら読んでみても,明確な,そして納得できる答えというものは出てこない。 ただ,途中,精神科医の書いた論文が紹介されており,その中で今回の犯行の動機について,一つの答えとなりうるようなものが示されていた。もちろんこれは一つの意見にすぎず,現実は全く違う動機なのかもしれないが,もし仮に動機がこの通りであるとすると,殺人を犯す動機なんてものは,こんな不明確なもので,ちっぽけなもの(という表現は適切ではないのかもしれないが)なのかもしれないと,ある種の諦め感じつつ受け入れる自分がいる一方で,こんな理由で4人も惨殺してしまう人間の心の恐ろしさと,やるせない怒りを感じる自分もいた。 この小説は,現実に起こった事件を扱っていることから,他の普通のフィクションの小説とは,リアリティが全然違う。淡々と事件の経緯を追っていくその描写に迫力を感じた。 長い小説ではあるけど,一読の価値はあります。 ぜひ読んでみてください。 <オススメ度>★★★★
熊本の工業学校を卒業して,東京の大学に進学した三四郎の,青春を描いた作品。
全体的に淡白で短調な印象を受けた。 三四郎の心の葛藤や美禰子への恋心などの心理描写があっさりしている感があり,読んでてつっかえることなくスラスラ読めてしまうのだが,その分,深く感情移入できなかった。 また,これは完全に好みの問題だけれど,作者の文章は一文一文が簡潔であり,あまりにすっきりとしているが,この点,長文でややくどい文章が好きな僕にとっては物足りなく感じた。 では,読んで損した気分になったかというと決してそうではない。美禰子との出会いや別れのシーンなどの印象に残るシーンや,台詞がたくさんあったからだ。特に,「その時僕が女に,あなたは画だと云うと,女が僕に,あなたは詩だと云った」という台詞は印象に残った。 結局,個々のシーンや台詞に印象に残るものがありつつも,全体としてはやや退屈であったというのが正直な感想だ。 <オススメ度>★★★
(あらすじ)
城田家は12人と犬一匹で暮らす大家族。そこに,ハンガリーからの留学生を受け入れたことから,ただでさえ騒動続きの城田家にさらなる騒動が巻き起こる・・・。 とても面白く,そして泣けた。 登場人物の個性が立っているのがいい。 一番好きな登場人物は,恭太のおじいちゃんである福造。 口は悪いが心優しい福造と,家族との,関西弁で繰り広げられる漫才は必見。 笑わせてもらいました。 この漫才が小説のとてもいいスパイスになっている。 家族内には次々と騒動が引き起こるが,人情味溢れる家族同士の結束によって克服してゆく。それぞれのエピソードは家族の温かみというものに満ちており,時には対立し,距離を置くこともあるが,結局はその温かみを求めて家族の下に戻っていく様子に,家族っていいなぁ・・・と,再認識してしまった。 ラストは泣けます。 久々に小説で胸が熱くなった。 是非読んでみてください。 どなたに対してもオススメできる小説です。 <オススメ度>★★★★★
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